ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No5-6

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概要

日本結晶学会誌Vol60No5-6

前田和彦図4金属酸化物のフラットバンド電位(伝導帯下端位置)とバンドギャップの相関.(Relationship between flatbandpotential and band gap of metal oxides with d 0or d 10 electronic configurations.)文献1)より転載.データは文献5)より抽出.ナス側にシフトさせ,バンドギャップの縮小,延いては可視光応答化が可能になると期待できる.6)複合アニオン化合物が光触媒として注目されるきっかけとなったのは,JansenとLetschertによる2000年の論文である.7)この中で彼らは,CaTaO 2NとLaTaON 2からなる酸窒化物固溶体が500~600 nmに吸収端をもち,無害な無機顔料として有望であることを報告している.この報告の後,堂免らは酸窒化物を新たな可視光応答型光触媒として用いる研究を開始し,その初期の研究でTi 4+やTa 5+から構成される複数の酸窒化物光触媒を報告した.6)そして2005年以降には,Ga 3+やGe 4+といったd 10型酸窒化物を用いた犠牲試薬を用いない可視光水分解も達成した.例えば,Rh-Cr複合酸化物などを助触媒として担持したGaN:ZnO固溶体は,400 nm以上の可視光に応答して水を水素と酸素へ分解し,100日間以上にわたって安定に動作することが確かめられている.8)-10)最近では,組成制御したLaTaON 2とLaMg 1/3Ta 2/3O 3との固溶体を用いることで,600 nmまでの長波長可視光を水の完全分解に利用することにも成功している.11)このように適当な酸窒化物光触媒を用いれば,再現性良く可視光で水を分解できるレベルにまで開発は進んでいる.しかしこれらの酸窒化物光触媒を用いた水分解の太陽光エネルギー変換効率は最大でも0.2%程度と低く,12)継続的な研究開発が強く望まれている.以下の項では最近著者らが見出した,可視光水分解に展開可能な非従来型の複合アニオン光触媒について解説する.4.窒素ドープルチル型TiO 2上記の例からもわかるように,可視光応答型光触媒として用いられる酸窒化物は窒素をその組成に含んだ置換型の化合物である.一方,金属酸化物の結晶構造を維持図5TiO2:Ta,Nおよび関連化合物の(A)紫外可視拡散反射スペクトルと(B)バンド端位置.(UV-visiblediffuse reflectance spectra and band-edge potentials ofTiO 2:Ta,N and related compounds.)文献14)より転載.Copyright 2017 Royal Society of Chemistry.したまま窒素を導入する“ドーピング”も金属酸化物光触媒の可視光応答化に対して一般的な手法として確立されている.4),13)しかし,ドープ型酸化物の可視光吸収はドーパントの濃度によって規定され,置換型と比べて弱いこと,さらには価数の異なるアニオンの交換(O2-/N 3-)によって電荷不均衡が生じ,格子欠陥を形成して電子/正孔の再結合を促進するなどの問題点も指摘されている.6)事実として,窒素ドープ型酸化物を水分解に代表される光エネルギー変換型反応の光触媒として用いた報告はきわめて少なく,有望視されているとは到底言えない状況だった.われわれは,ルチル型TiO 2に窒素(N3-)とタンタル(Ta 5+)を共ドーピングすることで,高活性なドープ型酸化物光触媒の創出を試みた.14)TiO 2:Ta,Nは,マイクロ波支援ソルボサーマル法で合成したTiO 2:Taをアンモニア気流中で623~873 K,1時間加熱することで得た.ICP発光分析の結果,ドープされたTa量は1.0 mol%であり,仕込んだすべてのTa原料がルチル型構造のTiO 2結晶格子内部に取り込まれていることが確認できた.一方で窒素の導入量は窒化条件によらず0.1 wt%程度に留まった.窒化処理の結果として着色した生成物が得られ,これらのX線回折パターンは処理前後でほぼ同一だった.図5Aに,723 Kで合成した各試料の紫外可視拡散反射スペクトルを示す.TiO 2:Taの吸収端は410 nm付近にあり,これはルチル型TiO 2とほぼ同じ位置である.したがって,TaドーピングはTiO 2のバンドギャップ構造に影響を与えていないと判断できる.このTiO 2:Taを窒化して得た材料は550 nm付近にまで達する新たな可視光吸収帯を示し,これはTaをドープせず,同様な方法で合成したTiO 2を窒化した場合よりもやや強かった.Taの共ドーピングにより電荷補償が実現し,窒素の導入がより容易になったことが示唆される.電気化学測定によってバンド端位置を求めたところ,TiO 2:Ta,Nの伝導帯下262日本結晶学会誌第60巻第5・6号(2018)