ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No5-6

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概要

日本結晶学会誌Vol60No5-6

複合アニオン化合物の光触媒機能図2半導体光触媒上での水分解反応の基本原理.(Basicprinciple of overall water splitting on a semiconductorphotocatalyst.)図3電子供与剤あるいは受容剤を含む水溶液からの水素,酸素生成半反応.(Hydrogen and oxygen evolutionhalf reactions from aqueous solutions containing anelectron donor or acceptor.)生成した電子と正孔が電荷分離してバルクを移動し,それらが表面に到達して水の酸化還元反応を行うことではじめて達成される.そのため,励起電子と正孔による再結合を防ぎ,表面における反応速度を向上させることが光触媒の高活性化に不可欠な要素となる.すなわち,半導体の本質的な物性に加えて,その調製法や修飾法も光触媒活性に大きく影響する.金属や金属酸化物のナノ粒子(これらは助触媒と呼ばれる)を半導体上に担持して反応活性点として用いることは,そのための一般的な方策である.上記の理由により,半導体光触媒を用いて水を分解することは多くの困難を伴う.そのため,半導体光触媒の開発にあたっては,ある半導体が光触媒的に水を還元,または酸化できる能力を備えているかを評価する簡便な方法として,アルコールなどの還元剤を含む水溶液からの水素生成反応や,銀イオンなどの酸化剤を含む水溶液からの酸素生成反応がしばしば行われる.図3に示すように,水溶液中に水よりも酸化されやすいメタノールなどの還元剤が存在すると,光励起によって生成した価電子帯の正孔は不可逆的に還元剤を酸化する.その結果,励起電子によるプロトンの還元反応が進行しやすくなり,水素の生成をより効率的に進行させることができる.ただし,このとき伝導帯の下端がプロトンの還元電位よりもマイナス側になければ,水素生成は進行しない.一方,Ag+などの酸化剤が系中に存在すると,伝導帯の励起電子は不可逆的に酸化剤を還元する.その結果として,正孔による水の酸化反応が進行しやすくなり,酸素の生成を効率的に行うことができる.もちろん価電子帯の上端が水の酸化電位よりもプラス側になければ酸素生成は進行しない.このような反応で使用される酸化剤・還元剤は,しばしば犠牲剤,あるいは犠牲試薬と呼ばれる.犠牲試薬からの水素,または酸素の生成反応は光触媒反応ではあるが,水の完全分解反応ではない.これらの反応は,ある日本結晶学会誌第60巻第5・6号(2018)光触媒が水を分解するための必要条件の一部を満たしているかを判断するためのテストリアクションに過ぎないことに注意する必要がある.3.可視光応答型複合アニオン光触媒地表に到達する太陽光を光触媒水分解に利用するには,太陽光の大部分を占める可視光を利用することが必須となる.これまでの研究で,d 0あるいはd 10電子状態の金属イオンを主たる構成元素とした酸化物(例えばSrTiO 3,Ga 2O 3など)を用いれば,紫外光照射により高効率に水を水素と酸素に分解することがわかっている.4)しかしこれらの金属酸化物のバンドギャップは大きいため,可視光の有効利用が望めない.多くの金属酸化物光触媒が紫外光を必要とするのは,そのバンド構造に起因する.すなわち,価電子帯を形成するO-2p軌道が水の酸化電位(+1.23 V vs. NHE at pH 0)よりもかなり深い位置(約+3V)にあり,伝導帯下端位置が水の還元電位(0V)よりもマイナス側にあるならば,必然的にバンドギャップは3 eVを超えて可視光に応答することができなくなる.別の言い方をすれば,バンドギャップが3 eV未満の酸化物半導体の場合,水の還元に十分な伝導帯下端電位をもてないことを意味する.このことは,水の可視光分解が可能な酸化物光触媒の開発が困難なことを強く示唆しており,図4に示すプロット5)はこの状況を的確に描写している.金属酸化物を基礎とした可視光応答型光触媒開発の第一歩は,伝導帯下端位置を変化させることなく,価電子帯上端をマイナス側にシフトさせることにあると言えるだろう.この点において複合アニオン化合物は,可視光応答型光触媒の有望な候補となる.酸素よりも電気陰性度の小さいアニオン種を含む複合アニオン化合物(例えば酸窒化物)では,アニオン種由来のp軌道がO-2p軌道よりもマイナス側に価電子帯を形成する結果,金属酸化物の伝導帯のレベルを保ちつつ価電子帯の上端をマイ261