ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No5-6

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概要

日本結晶学会誌Vol60No5-6

日本結晶学会誌60,260-267(2018)ミニ特集複合アニオン化合物の魅力複合アニオン化合物の光触媒機能東京工業大学理学院前田和彦Kazuhiko MAEDA:Photocatalytic Property of Mixed Anion CompoundsMixed anion compounds such as oxynitrides and oxychalcogenides are potential photocatalystsfor visible-light water splitting, because p orbitals of less electronegative anion(e.g., N 3-, S 2-)canform a valence band that has more negative potential than oxygen 2p orbitals. This article describesour recent progress in the development of new mixed anion-type photocatalysts for visible-lightdrivenwater splitting.1.複合アニオン化合物の機能創出の基本コンセプト同一化合物内に複数のアニオン種が共存する複合アニオン化合物では,単一のアニオンからなる化合物(例えば金属酸化物など)では見られない革新的な機能発現が期待できる.図1には,複合アニオン化合物において期待できる機能発現の基本コンセプトをまとめた.1)誌面スペースの都合上,これらすべての機能を網羅的に解説するのは不可能なため,本稿では著者の専門であり複合アニオン化合物の代表的な機能でもある光触媒機能に焦点を絞り,最近の研究を中心に紹介する.ここで鍵となるコンセプトはバンドギャップ制御となる.複合アニオン化合物の機能を俯瞰した記事については,最近著者ら1が出版したオープンアクセスのレビュー論文)を参照されたい.2.半導体光触媒作用の基本原理複合アニオンであるか否かによらず,光触媒作用を示す固体は半導体あるいは絶縁体である.簡単のため,本誌面上では“半導体”に統一して解説する.光触媒水分解の研究の究極のゴールは,太陽光エネルギーを利用して効率良くかつ大規模に水素を得ることにある.2)この点において,粉末状の半導体光触媒を用いることはスケールアップの面で有利とされ,3)近年では世界中で研究が進められている.図2には,半導体上で起こる水の光分解反応の原理を模式的に示している.半導体は,電子が詰まった価電子帯と電子の存在しない伝導帯とが適当な幅の禁制帯(バンドギャップ)で隔てられたバンド構造を有している.半導体がバンドギャップ以上のエネルギーをもった光を吸収すると,価電子帯の電子が伝導帯に励起され,価電子帯には正孔(ホール)が生成する.このとき,伝導帯の下端がプロトンの還元電位よりもマイナス側に,価図1複合アニオン化合物の機能発現コンセプト.(Basic concepts of functionalization of mixed anioncompounds.)文献1)より転載.電子帯の上端が水の酸化電位よりもプラス側にあれば,伝導帯の電子はプロトンを還元して水素を生成し,価電子帯の正孔は水を酸化して酸素を生成することができ,水の分解が進行することになる.簡単に表現すると,半導体の価電子帯の上端と伝導帯の下端が水の酸化還元電位を挟み込む位置にあれば,その半導体は水の分解を行うポテンシャルを有していると言える.図2の縦軸は電子のポテンシャルエネルギーと読み替えてもよく,電子にとっては図中の下側ほど居心地が良いということになる.しかしこれは,水の分解を進行させるために半導体が有するべき熱力学的必要条件であって十分条件ではない.半導体光触媒による水の分解反応は,光吸収により260日本結晶学会誌第60巻第5・6号(2018)