ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No5-6

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概要

日本結晶学会誌Vol60No5-6

複合アニオン化合物の構造解析選択することにより原子配列を解析できる.17)EELSではスペクトルの微細構造から結合状態を判別できる.18)吸収端近傍の微細構造(Energy Loss Near EdgeStructure, ELNES)はX線吸収分光法(X-ray absorptionspectroscopy, XAS)のXANES(X-ray Absorption Near EdgeStructure)と基本的には同一である.価数の違いだけでなく,例えば4配位と6配位の違いなども識別でき,19)第一原理計算との比較が有効である.エネルギー分解能は電子銃のエネルギー広がりで制限を受け,従来は1 eV程度であったが,近年はモノクロメーターが実用化され,20)10 meV程度のエネルギー分解能になっており,フォノンの計測など今後の発展が期待されている.回折法では,O,NおよびFを区別することが困難であることと対照的に,これらの元素の組み合わせであっても,STEM-EELS法を用いることで,結晶格子内の各原子カラムの分解能で原子占有率を決定することができる.薄膜試料は,結晶方位が良好に制御できる場合が多い一方,回折法による精密構造解析が適用可能ではないため,特に効果的である.4.局所構造解析上記のSTEM-EELS法に加えて,X線吸収スペクトル(XAS),マジック角回転核磁気共鳴(MAS-NMR)法などによって,アニオン組成だけでなく局所的な構造や化学環境の情報を得ることができる.4.1 X線吸収分光法XASも,O,N,Fを識別同定し,それらの化学状態を決定するのに有効である.一般に,XASは,粉末やバルクなどの未配向試料を対象とするが,岡と長谷川らは,基板との格子定数差を利用して制御された歪みを有するペロブスカイトCa 1-xSr xTaO 2Nエピタキシャル膜を,偏光光源を用いたX線吸収端近傍スペクトル(XANES)により分析している.21)OおよびN核からの吸収端スペクトルから,Ta 5d軌道とOまたはNとの間のπ結合の強度を導き,6配位Ta八面体TaO 4N 2のNの配置幾何の決定を試みたところ,NがTa八面体中で,基板に垂直に配向するようにaxial位置を占有し,trans配置を取ることを見出している(図6).この計測結果は,STEM-EELSおよび密度汎関数理論(DFT)計算によっても裏付けられた.粉末試料のSrTaO 2N系酸窒化物では,cis配置が優位であることが知られており,基板による圧縮歪がtrans配置を安定化していると結論付けられている.4.2核磁気共鳴法マジック核スピン法による固体高分解能核磁気共鳴法(Magic angle spinning-nuclear magnetic resonance,MAS-NMR)は,古典的な複合アニオン化合物の局所的構造決定にも有効であった.すなわち,Si-Al-O-N系材料(SiAlON)の構造決定に関してであるが,本材料はSi 3N 4日本結晶学会誌第60巻第5・6号(2018)図6偏光XANESによる薄膜中のアニオンのπ結合の評価の概念と,X線二色性の値の基板との格子定数差の依存性.(Evaluation ofπ-bonding of anions ina thin film by polarized XANES and the dependenceof X-ray dichroism on the lattice constant differencebetween the films and the substrates.)(a)歪が大きくなるにつれ,酸素がequatorial位に,窒素がaxial(apical)位に配置する割合が増加する.(b-d)高角環状暗視野-走査透過電子顕微鏡(HAADF-STEM)像(b)とN-K端(c)およびO-K端(d)のEELSスペクトル.同様にNがaxial位に優先的に21占有していることがわかる.出典)の許可を得て一部改変して掲載.c American Chemical Society(2017).とAl 2O 3との固溶体で,近年では青色発光ダイオード向けの蛍光体として工業的にもますます重要になっている.SiAlONのX線回折測定では,N,O,Fの場合と同様に,SiとAlのX線散乱因子が近いため,SiとAlの直接識別や構造決定が困難である.しかし,MAS-NMRを用いることで,29 Siおよび27 Al核周辺のOとNの局所配位を決定し,それらの情報を統合することで,酸窒化物結晶全体の構造モデルが得られる.22)従来,Al-Oの優先的なクラスタリングの傾向が見出されてきたが,近年の研究では,第一原理計算と組み合わせることで,その裏付けがなされている.23)水素化物イオンH-もXRDによって直接評価が困難なアニオンであるが,酸化物をベースにした酸水素化物結晶の場合,特定の結晶席のすべてや,数割程度の高濃度のH-が導入された結晶では,中性子回折法によって直接的に評価が可能である.しかしH-が微量成分として導入されている場合は,評価が困難であった.一方,高感度は1 H核-NMRの特徴であり,下記のように,全アニオンの0.1%レベルの濃度であってもH-を検出すること257