ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No5-6

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概要

日本結晶学会誌Vol60No5-6

複合アニオン化合物の構造解析図2 Sm 2Ti 2S 2O 5-δのbc面上(x=1/2)における構造と電子密度分布.7)(Structure and electron-density distributionon the bc plane(x=1/2)of Sm 2Ti 2S 2O 5-δ.7))(a)精密化した結晶構造,(b)MEM電子密度分布,および(c)密度汎関数理論(DFT)計算により得られた価電子密度分布の一部.(a)ではTiSO 5-δ八面体の稜を青い線で描いている.c International Unionof Crystallography(2008).編集部注:カラーの図は電子版を参照下さい.合間の最小電子密度が相対的に高く,(Ta,W)-(O,N)がより共有結合的であることを示している.また,(Ta,W)-(O,N)結合間の最小電子密度はSrWO 2N濃度xの増加とともに増加した.これは第一原理計算により得られた電子密度分布から,強いW-N結合が原因であると考えられる.Ruddlesden-Popper型Sm 2Ti 2S 2O 5-δは可視光に応答す7る光触媒)の1つであり(δは酸素欠損量),正方晶系,空間群I4/mmmに属し,格子定数がa=b=3.82123(2)A,c=22.96371(12)A,α=β=γ=90°,V=335.312(3)A 3(298 K)である.7)図2bと図2cに示すように.Ti-O間にはTi 3dとO 2p軌道の重なりによる共有結合が存在する.一方,SおよびSm原子はよりイオン結合的である.Sm 2Ti 2S 2O 5-δのS原子とほかの原子との間の結合がイオン的であることは,この化合物中ではS原子が硫化物イオンS2-として存在することを明確に示している.このように,複合アニオン化合物では異なるアニオンにより,異なる結合を導入できる.2.2中性子回折法X線回折と同様,中性子回折データを用いて,複合アニオン化合物の構造パラメータを精密化できる.複合アニ日本結晶学会誌第60巻第5・6号(2018)図3水酸アパタイトの規則性と不規則性および電荷移動.8)(Ordering and disordering, and charge transfer ofhydroxyapatite. 8))室温(a-c)と400℃(d-f)におけるHApの中性子散乱長密度分布(a,d),MEM電子密度分布(b,e),DFT電子密度分布(c,f).c American Chemical Society(2011).オン化合物ではアニオンの原子番号が小さい場合が多い.中性子回折法を用いるとカチオンなど原子番号の大きい原子と共存する,H,N,O,Fなど原子番号の小さい原子の構造パラメーターを正確に調べることができる.図3a,bに示すように,水酸アパタイト(Ca 5(PO 4)3(OH))の中性子散乱長密度分布により,H原子とO原子の位置と分布を研究した.8)占有状態と配向の規則-不規則性および電子密度分布と組み合わせて,H原子からO原子への電荷移動も調べることができた.8)中性子回折により原子番号が近接しているイオンを区別できる場合がある.例えば,複合アニオン化合物である酸窒化物における酸化物イオンO2-(原子番号Z=8,電子数=10)と窒化物イオンN3-(原子番号Z=7,電子数=10)を区別するのは,X線粉末回折法では難しい.一方,窒素原子の中性子散乱長(9.36 fm)は酸素原子の中性子散乱長(5.803 fm)と差があるので,同じ席にN3-とO2-が存在するときの占有率を決めることができる.六方晶系P6 3mcのウルツ鉱型(Ga 0.87Zn 0.13)(N 0.83O 0.16)を例として考える(305 Kにおける格子定数a=b=3.19868(3)A,c=5.19278(5)A,単位胞体積V=46.0121(8)A3).(Ga0.87Zn0.13)(N0.83O0.16)におけるN3-とO2-は同じ席(P63mcの2b席)に存在しており,それぞれの席占有率はg(N)=0.84(2),g(O)=0.16(2)であった.9)酸窒化物における精密化した占有率が,酸化雰囲気あるいは空気中255