ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No5-6

ページ
35/78

このページは 日本結晶学会誌Vol60No5-6 の電子ブックに掲載されている35ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol60No5-6

新規複合アニオン化合物の創製表2報告されている主な層状複合アニオンペロブスカイトの酸化物層と副アニオン層の組み合わせ.14),27),29)-65)(Combinations of perovskite layers and second anion layers for reported layered mixed anion perovskites.)酸化物ペロブスカイト層副アニオン層(M’-X)Sr-Cr-OCr-AsBa-Mn-OMn-PSr-Sc-O, Sr-Mn-O, Ba-Mn-OMn-AsSr-Mn-O, Ba-Mn-OMn-SbSr-Mn-OMn-BiCa-Al-O, Sr-Sc-OFe-PCa-Al-O, Ca-(Al,Ti)-O, Ca-(Mg,Ti)-O, Ca-(Sc,Ti)-O, Sr-Sc-O, Sr-Cr-O, Sr-V-O, Sr-(Mg,Ti)-O, Sr-(Sc,Ti)-O, Ba-Sc-O Fe-AsSr-Sc-OCo-AsSr-Sc-O, Ba-Sc-ONi-PSr-Sc-O, Ba-Sc-ONi-AsSr-Mn-O, Ba-Mn-O, Sr-Zn-O, Ba-Zn-OZn-AsCa-Fe-O, Ca-Ga-O, Sr-Sc-O, Sr-Cr-O, Sr-Mn-O, Sr-Fe-O, Sr-Co-O, Sr-Ni-O, Sr-Cu-O, Sr-Zn-O, Sr-Ga-O, Sr-In-OCu-SCa-Fe-O, Sr-Sc-O, Ba-Sc-O, Sr-Mn-O, Sr-Fe-O, Sr-Co-O, Ba-Zn-OCu-SeSr-Mn-O, Sr-Co-O, Sr-Zn-OCu-TeSr-Fe-OAg-SSr-Sc-O, Sr-Mn-O, Sr-Fe-O, Sr-Ni-O, Ba-Ni-O, Ba-Zn-O, Ba-RE-OAg-Se依存する.ペロブスカイト層とFe-As層が積層した化合物は鉄系超伝導体の一種であり,Fe-As層とさまざまな酸化物ペロブスカイト層の組み合わせで超伝導が発現する.Sr 2ScFePO 3,Sr 2VFeAsO 3,Ca 3Al 2Fe 2As 2O 5などの化合物で比較的高い超伝導転移温度をもつことが報告されているほか,変わり種の化合物として,われわれはSr 2(Mg,Ti)FeAsO30)3という化合物を発見している.この物質は図2cのM3+サイト,平均価数が3価であるペロブスカイト層の6配位カチオンサイトをMg 2+とTi 4+が1:1で占める,いわゆるダブルペロブスカイト構造をもっている.Sr 2(Mg,Ti)FeAsO 3はMサイトの平均価数が+3であるが,この比率を変えて+3.33,+3.5など非整数の値とすると,驚くべきことに化合物全体でこの価数条件を満たすようにペロブスカイト層の厚みが変わった相が生成する.例としてにCa 4(Mg,Ti)3Fe 2As 2O 8(図2d),Ca 4(Mg,Ti)3FeAsO 9(図2e)の構造を示すが,これ以外にも多数の組成・構造が存在することがわかっている.これらの化合物は厚いペロブスカイトブロックを反映して積層周期が大きく,特にCa 4(Mg,Ti)3FeAsO 9の超伝導層間距離は30 Aと,非常に長周期の積層周期をもつ(図2f).一方,このようにダブルペロブスカイトを利用して特異的に長い周期をもつ化合物が合成できるのは今のところFe-As層との組み合わせに限られており,その理由は明らかになっていない.またM’-X層の種類を変えることで,超伝導以外にもさまざまな物性が発現する.Fe-As層部分がCu-S層で置き換わったSr 3Sc 2Cu 2S 2O 5では,絶縁体-半導体層が積層した自然超格子構造に由来して励起子発光が観測される.31)励起子発光は希土類発光中心と比較して蛍光寿命が非常に短く,放射線用シンチレータとしての応用に適しているとされる.66)絶縁層と半導体層の積層と日本結晶学会誌第60巻第5・6号(2018)なるような層を組み合わせ,かつ直接遷移型となるような化合物を合成することで,同様の発光を発現できる.Sr 3Sc 2Cu 2S 2O 5以外にもSr 2ScCuSO 3,Sr 2ScCuSeO 3,Ba 3RE 2Ag 2Se 2O 5(RE=Y,Lu)などの化合物はいずれも半導体-絶縁体が積層した超格子構造をもち,励起子発光する.29),32)M’-X層の種類をCuS~AgSeまで変えることで化合物のバンドギャップおよび発光波長を制御することも可能である.Sr 3Sc 2Cu 2S 2O 5,Sr 3Sc 2Cu 2Se 2O 5,Sr 3Sc 2Ag 2Se 2O 5は同一の結晶構造をもち,副アニオン層の元素のみが異なっている化合物であるが,電子構造が主に副アニオン層に由来することから層の種類の違いによりバンドギャップが2.5~3.15 eVと変化し(図4a),これにより2.5~3.6 eVの範囲で発光エネルギーを制御できる(図4b).また発光特性は積層構造によっても制御できることもこの系の特徴である.Sr 3Sc 2Cu 2S 2O 5とSr 2ScCuSO 3はそれぞれ図2b,cの構造をもち,構成元素とバンドギャップはほぼ同等である.一方でペロブスカイト層の積層形態が異なり,励起子の閉じ込め効果が異なるため,発光強度の温度依存性に大きな違いがあり(図5),Sr 2ScCuSO 3の発光は多結晶体であっても室温で観測可能である.構成元素の選択によりシンチレータに必要なγ線阻止能(密度と実効原子番号に依存)や中性子阻止能(Liなど特定の元素の含有量に依存)を付与することも可能である.例えばBa 3Lu 2Ag 2Se 2O29)5は密度7.5 g/cm 3と実用シンチレータ材料(Lu 2SiO 5:Ce,理論密度7.4 g/cm 3)を超える理論密度をもつ.このほかにも,層間の低い熱伝導率を利用した高い熱電特性をもつ14化合物)や,化学圧力効果による磁気状態の制御67)など,さまざま物性,機能をもちうることが明らかになっている.これら複合アニオン化合物の合成は基本的に前述の251