ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No5-6

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概要

日本結晶学会誌Vol60No5-6

新規複合アニオン化合物の創製表1主なアニオンの電気陰性度・イオン半径およびO 2-とのイオン半径比.3),4)(Electronegativity, ionic radii and ionicradii ratio to O 2-for major anions.)電気陰性度イオン半径電気陰性度イオン半径電気陰性度イオン半径イオン(Pauling)(A,C.N.=6))%イオン(Pauling)(A,C.N.=6))%イオン(Pauling)(A,C.N.=6))%H-2.1(1.48)(5.7)N 3-3.01.464.3O 2-3.51.400.0F-4.01.33-5.0P 3-2.11.9035.7S 2-2.51.8423.9Cl-3.01.8129.1As 3-2.02.0546.4Se 2-2.41.9841.4Br-2.81.9640.0Sb 3-1.9**Te 2-2.12.2157.9I-2.52.2057.1い点である.よく知られているように,多くのイオン結合性化合物は,大きなアニオンが最密充填した隙間を小さなカチオンが占めた構造を基本とする.アニオンは電子を受容することでカチオンより一周期分電子配置が大きくなるだけでなく,有効核電荷が小さいためさらにイオン半径が大きくなる.例えばK+とCl-を比較した場合,イオン化するとどちらもArと同様の電子配置となるが,K+のほうが有意にイオン半径が小さい(K+:1.38 A,Cl-:1.81 A,6配位).ペロブスカイト構造をもつ化合物は大小のカチオンと比較的大きなアニオンの組み合わせで広く見られるが,カチオン・アニオンが反転した逆ペロブスカイト構造をもつ化合物が非常に少ないのは,大小アニオンと大きなカチオンの組み合わせが非常に限られるためである.一方でアニオンがカチオンと比較して大きなサイズをもつことは,必然的にアニオンの組み合わせがカチオンの組み合わせとは異なる結晶構造を生み出しうることも意味する.なお,カチオン・アニオンはあくまで相対的なものであり,組み合わせる元素や,合成環境によっても状況が変化することには注意が必要である.例えば金属-酸素-硫黄の三元系の場合,一般に硫黄分圧が高ければ金属硫化物(M xS y;S2-)が,酸素分圧が高ければ金属酸化物(M xO y;O2-)が生成するが,両者の分圧がともに高くなると,金属元素種と分圧に応じて硫酸化物(Mx(SO 4)y;O 2-,S 6+)や,系によっては酸硫化物(M xO yS z;O2-,S 2-)が生成する.前者の場合硫黄は硫酸(SO 4)2-を形成し,形式上はカチオンとなる.このように,より電気陰性度の高いアニオンを多量に含む場合オキソ酸やフルオロ酸などが形成されることは,多種の元素が同時にアニオンとなることを妨げる.また水素やスズ,ビスマスなど比較的電気陰性度が低い元素がアニオンとなるには,パートナーカチオンとしてアルカリ金属,アルカリ土類金属や希土類などの電気陽性なカチオンが必須である.例えば水素化物では,遷移金属元素は水素と単純水素化物を形成せず,電子供与性の強いリチウムなどと組み合わせた場合のみ水素が錯アニオンとなることが知られている.5)2.2合成に与える影響前述のようなアニオンの諸性質は,複数アニオンを同一化合物中に含む複合アニオン化合物の合成にも大き日本結晶学会誌第60巻第5・6号(2018)CaH 2(a) BaTiO 3 (b) BaTi(O,H) 3CaH 2(c) LaSrCoO 4 (d) LaSrCoO 3 H 0.7図1BaTiO3(a,b)およびLaSrCoO4(c,d)に対するトポケミカル反応による酸水素化物の合成.(Synthesisof oxyhydrides by topochemical reactions for BaTiO 3(a, b)and LaSrCoO 4(c, d).)な影響を与える.アニオン相互の性質が異なることは,アニオンの単純置換では多くの遷移金属化合物や希土類化合物に見られるような一連の化合物を合成することはできず,基本的にはアニオンの組み合わせごとに異なる化合物を形成することを意味する.また比較的低い蒸気圧をもつことから,通常の固相反応を行う数百℃~2,000℃程度までの条件下で,原料やその成分がそれぞれ異なる温度で揮発する可能性がある.このほかオキソ酸・フルオロ酸などの存在や,アニオンによっては電気陽性カチオンが必須であることは元素選択と合成条件に関する大きな制約となる.結晶構造内で異なるアニオンそれぞれが占めるサイトについては,同じアニオンの組み合わせであってもBaTi(O,H)3(図1b)6)におけるH-とO2-のように同一サイトを占め,ある程度の固溶域をもつ場合(無秩序型)247