ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No5-6

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概要

日本結晶学会誌Vol60No5-6

複合アニオン化合物の研究の魅力テラー効果に代表される電子-格子相互作用に起因する歪みは,構造および物性にしばしば重要な影響を与えるが,それらは摂動的に取り扱われる効果である.つまり酸化物では限られた高対称な配位多面体が基本ユニットとなり,それらを種々な集積パターンと組み合わせることで,多様な化学組成と結晶構造を生み出されると考えることができる.しかし,結晶では並進対称性のため集積パターンにも限りがあるため,数多の報告が積み上げられた現在において,新物質を開拓するのは容易ではない.一方,1つの金属カチオンが複数のアニオン配位子と結合した(heteroleptic)多面体を形成する複合アニオン化合物は,結晶を構成する基本ユニットの自由度が単一アニオン化合物と比べて飛躍的に向上している(図1下部).アニオンの組成比(配位数比),位置,種類というパラメータを組み合わせることで,例えば四面体配位1つとっても膨大な数の組み合わせが可能である.この幾何学的な自由度とアニオン間で異なる特性(電荷,イオン半径,電気陰性度,分極率など)の組み合わせを考えると,結晶の基本ユニットの多様性は単一アニオン化合物の比ではない.それゆえ複合アニオン化合物では,単一アニオン化合物では成し得ない電子および原子状態の実現とそれに起因する新奇機能の発現がおおいに期待できる.また,アニオンには水素,塩素,リンといったクラーク数上位の元素も多い点も,将来的な材料化という観点からは重要な点である.3.複合アニオン化がもたらすもの複合アニオン化合物の研究は,その統一的な理解にむけて現在進行中だが,これまでの研究から図2に要約されるように,従来の単一アニオン化合物では見られない重要な特徴が明らかになってきた.例えば,八面体または四面体配位の酸化物リガンドをほかのアニオンで置換することは,結合エネルギー(図2e)の変化を引き起こすため,化学反応やアニオン拡散への寄与が期待できる(図2f).これは後述するアニオン交換反応と密接な関連がある.また,局所的な対称性の低下(図2d),またはシス/トランスといった配位の自由度向上(図2c)を引き起こす可能性もある.後者は配位化学(錯体化学)では一般的である一方で固体化学ではあまり注目されていなかったが,近年解析技術と理論計算の進歩によってその全貌が明らかにされつつある.一例をあげると,ペロブスカイト型酸窒化物SrTaO 2N中のTaO 4N 2八面体においては,N-Ta-Nシス型配位が三次元的に連なることでcorrelated disorder(相関無秩序)と呼ばれる興味深い状態が現れることが示されている.2)相関無秩序が実現している最も有名なケースは氷(H 2O)であるが,複合アニオン化合物においてもその非自明な秩序に起因する新奇機能がもたらされるかもしれない.また多面体における配位制御は,配位錯体と同様に結晶場分割(Crystal Field Splitting;CFS)の程度を結晶中で変化できることを意味する(図2a).蛍光体分野では図2複合アニオン化合物がもたらす特性.(Whatmixed-anioncompoundscando.)(a)結晶場の制御.(b)バンドギャップ制御.(c)局所配位の自由度.(d)局所的な対称性の変化.(e)結合性の変化.(f)アニオン配位子の拡散および交換.(g)次元性の低下.(h)分子アニオン.論文1より転載.日本結晶学会誌第60巻第5・6号(2018)241