ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No5-6

概要

日本結晶学会誌Vol60No5-6

日本結晶学会誌60，240-245（2018）ミニ特集複合アニオン化合物の魅力複合アニオン化合物の研究の魅力分子科学研究所竹入史隆京都大学工学研究科陰山洋Fumitaka TAKEIRI and Hiroshi KAGEYAMA: Mixed-Anion Compounds: A New Trendin Solid State ChemistryInorganic compounds such as oxides and nitrides are widely used in various industries includingelectronic devices, batteries, display and so on. However, despite the large number of constituentelements in these materials, the diversity of atomic coordination is severely limited, which givesconstraints in materials design for next generation. In contrast, compounds with multiple anionsbeyond the single-anion, such as oxyhalides and oxyhydrides, provide a new materials platform whichbrings new degree of freedom for designing materials. Here, we overview the features, advantagesand recent trends of mixed-anion compounds with our recent results of topochemical anion exchangereactions to form various mixed-anion oxides.1．はじめに多様な構造と組成をとる金属酸化物，フッ化物，および窒化物などの機能性固体材料は，触媒，電池，蛍光体，磁石，電子デバイスなどに用いられ，現代社会を支えている．これまでの実験および理論計算に基づく知見の蓄積は，これらの「単一アニオン」物質に広範な理解をもたらし，特性の向上に寄与してきた．この大部分は幅広い元素置換を基盤とした金属カチオン化学の賜物である．しかし既存材料の結晶構造および形態の最適化が進んだ現在，酸化物をはじめ単一アニオン化合物における新物質，新材料開発には頭打ち感が否めず，新たな突破口が求められている．複合アニオン化合物とは，酸フッ化物（酸化物－フッ化物）および酸窒化物（酸化物－窒化物）のような，単一相中に複数のアニオン種を含む固体物質の総称である．組成と構造の多くを鉱物学からの派生で理解ができる酸化物とは異なり，複合アニオン化合物には未知の領域が多く残されている．これは後に述べる局所構造の高い自由度（配位子の種類とその幾何学的配置）に顕著に現れており，その特徴が酸化物では得られない化学的および物理的機能の発現をもたらしている．その（局所）構造や機能の制御，さらにはそれらを「見る」解析手法は近年著しい発展を遂げつつあり，アニオンを中心とした化学，物理学，材料科学は新しい可能性の宝庫となっている．本特集では複合アニオン化合物の現状や課題と展望について，合成，解析，機能という3つの観点から各分野の専門家が紹介する．本稿はその導入として複合アニオン化合物とは何か，何ができるのかという点を解説したのち，筆者らが取り組んできたイオン交換反応をトピックとして本領域の魅力と奥深さを紹介し，最後に今後の展望を述べたい．なお本分野に関する世界初となる1レビュー論文）も参照していただければ幸いである．2．複合アニオンの特徴酸化物などの単一アニオン化合物と複合アニオン化合物の違いを端的に表すのはその局所構造である．酸化物における金属カチオンまわりの配位は，一般的に対称性が高いことが知られている．例えば正八面体，正四面体，平面四配位などであり（図1上部），これは剛体球モデルを考えれば当然の帰結ともいえる．もちろんヤーン図1従来の酸化物（上部）と複合アニオン化合物（下部）の金属配位パターンと結晶Anion構造coordination．（patterns and crystal structures of oxides and mixed-anioncompounds.）論文1（open access）の図を転載．240日本結晶学会誌第60巻第5･6号（2018）