ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No5-6

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概要

日本結晶学会誌Vol60No5-6

低温電子顕微鏡による単粒子解析法の最前線2.動きと電子線損傷の補正試料に電子ビームを照射すると,その運動エネルギーや温度変化などにより試料は動きはじめる.そのうえ,ステージ自体も完全には静止していない.そこで動画として撮影し,フレームごとに動きを見積もって補正することが一般的である.カメラの手ブレ補正と同じ考え方だが,電顕画像では手ブレと違って視野全体が同じ方向に動くわけではない.よく使われているMotionCor2では,画像を縦横数マスに分割して区域ごとに動きを推定したあと,三次多項式で回帰することで連続的変形を表現している.4)フレームの動きは,ほかのフレームの和との相関係数を最大化することで推定される.そのため粒子位置や三次元リファレンスは不要であり,解析の初期の段階で実行できる.一方RELION 3に搭載されたBayesian Polish 5)は解析の終盤で実行するものであり,三次元リファレンスの投影と粒子像を比較することで粒子ごとの軌跡を推定する.三次元リファレンスを用いることでより高い信号雑音比を得られるうえ,不良画素などの固定パターン雑音の影響を受けにくくなる.それでも,各粒子・各フレームは軌跡を安定して推定するに足る信号をもたないから,リファレンスとの相互相関に加えて,速度と加速度と隣接した粒子同士の動きについての束縛項を加えた評価関数を用いている.これまでのPolish機能では等速直線運動を当てはめていたので,それに比べ表現力が向上した.また,従来よりも高速かつ数値的に安定な方法でフレームごとのスケール因子を求め,電子線損傷の影響を重み付けしている.を拾う手間が省ける.なお,近年発展の著しいニューラルネットワークを利用したプログラム6)も登場しつつある.5.Multibody精密化単粒子解析法では,多数の粒子像を平均化することで信号雑音比を稼いでいる.平均化にあたり,すべての粒子が同じ三次元構造に由来することが前提となる.現実の粒子は,サブユニットの有無といった組成の多様性や,ドメインの配向が異なるといった構造の多様性を呈する.多様性が離散的少数である場合は,三次元分類によって数個の純粋均一な部分集合(クラス)に分割し,それぞれを独立に解析できる.しかし,連続的な構造変化がある場合は,純粋なクラスに分割することができない.クラス数が少なすぎればクラス内に不均一性が残り,再構成はブレてぼやけたものとなってしまう(図2A).かといってクラス数を増やせば,クラス内での純粋性は高まるが,クラス当たりの粒子数が減るので十分な平均化が行えず,やはり分解能が制限される.連続的な構造変化のもとでは,1クラス1粒子という極限に至らない3.TIFF画像対応TIFF画像の読み込みに対応した.計数モードで撮影した動画の各フレームは1画素当たりせいぜい数電子しか受け取らないので,低ビットの整数値として保存できるうえ圧縮率も高い.TIFFは透過的圧縮に対応しているので,圧縮や展開を意識せず,そのまま処理プログラムに読み込むことができる.ZIP圧縮を有効にしたTIFF形式で保存することで,32ビットMRC形式に比べて20分の1未満の容量に圧縮できる.なお,撮影時にゲイン正規化を行うと画素値が整数でなくなってしまい,圧縮もほとんど効かなくなるから注意が必要である.4.粒子拾いこれまでは,手作業で数百粒子を拾い,そこから作った二次元クラス平均を自動粒子拾いの鋳型として使うのが一般的だった.RELION 3ではラプラシアンフィルタに基づいた鋳型不要な方法も追加した.粒子の長径と短径の概数を指定するだけで十分であり,手作業で粒子日本結晶学会誌第60巻第5・6号(2018)図2構造多型のある分子の解析方法.(Data processingstrategies for flexible molecules.)A連続的な構造変化(白いドメイン)がある場合,三次元分類では純粋なクラスに分類しきれない.B粒子像全体(左)と,マスクしたリファレンス(右)の比較は等価ではない.C灰色のドメインを減算してから,白いドメインだけをマスクしたリファレンスに対して精密化すれば等価な比較となる.D Multibody精密化では,剛体ごとに方位とリファレンスを精密化し,反復によって減算を正確にしていく.231