ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No5-6

ページ
12/78

このページは 日本結晶学会誌Vol60No5-6 の電子ブックに掲載されている12ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol60No5-6

酒井雄樹,東正樹図3ペロブスカイト酸化物PbMO 3の電荷分布変化.6)(Valence distribution changes in PbMO 3 perovskite oxides.)(HS Co 2+)0.5(LS Co 3+)0.5の価数およびスピン状態は,PbCoO 3が示す電気的・磁気的性質とも整合している.PbCoO 3はT N=10 Kの反強磁性体であり,常磁性領域の磁化率の温度依存性から求めた有効磁気モーメントの値は,S=3/2のHS Co 2+と非磁性のLS Co 3+が1:1で含まれているときの値に近い.また,半導体的な電気伝導も,HS Co 2+とLS Co 3+がNaCl型に秩序配列していることで説明できる.図2PbCoO 3の(a)硬X線光電子分光および(b)X線吸収分光スペクトル.6)(Hard X-ray photoemission(a)and soft X-ray absorption spectra(b)for PbCoO 3.)バレンスサムを計算した結果は,AサイトのPbとBサイトのCoが共に電荷秩序したPb 2+Pb 4+3Co 2+2Co 3+2O 12の特異的な電荷分布を示している(図1b).結晶構造解析で決定した電荷分布を直接観察するために,硬X線光電子分光測定を行った.また,Institute ofPhysics,Chinese Academy of ScienceのYouwen LongらとMax-Planck InstituteのZhiwei HuによってX線吸収分光も行われた.図2に硬X線光電子分光およびX線吸収分光スペクトルを示す.Pb-4fの硬X線光電子分光スペクトルは,PbCrO 3(Pbが2価と4価に1:1で不均化)と同様にPb 2+とPb 4+の2つのピークから成り立っていることがわかる.これら2つのピークの面積比から求めたPbの電荷分布はPb 2+0.32Pb 4+0.68と,結晶構造解析から得られたPb 2+0.25Pb 4+0.75に近い値となっている.X線吸収分光ではCoの価数状態だけではなく,スピン状態の情報も得ることができる.Co-L 2,3端X線吸収分光スペクトルは,高スピン(HS)Co 2+と低スピン(LS)Co 3+を1:1で含むLa 1.5Sr 0.5CoO 4と同様,HS Co 2+(CoO)とLS Co 3+(LiCoO 2)の2つのスペクトルの足し合わせで表すことができ,両価数スペクトルの面積比から見積もったCo価数はCo 2.55+と,2価と3価を1:1で含んでいることを示している.PbCoO 3の平均Co価数の2.5価はちょうどPbFeO 3とPbNiO 3の間の値であり,このことはPb系ペロブスカイトで見られる周期表に沿った価数変化がCoでも成り立つことを示している(図3).また本研究結果は,バレススキップ元素のs軌道と遷移金属のd軌道のエネルギー準位を制御することで,四重ペロブスカイト構造とみなせる特殊な電荷秩序を実現させたものである.四重ペロブスカイトは巨大誘電率,8)磁気抵抗効果,9)負の熱膨張,10)酸素11還元・酸素発生触媒)などさまざまな機能をもつことから注目されている物質群であり,三元素の単純な組成でも四重ペロブスカイトを生成可能な本手法は,機能性材料開発における元素選択の可能性を広げるものとなると考えられる.謝辞本研究は,多くの共同研究者のもと行われたものである.また,科研費(26106507,16H00883,15K14119 and16H02393),神奈川科学技術アカデミー,東京工業大学科学技術創成研究院World Research Hub Initiative(WRHI)プログラムの助成を受けて行った.深く感謝を申し上げる.文献1)R. Yu, et al.: J. Am. Chem. Soc. 137, 12719(2015).2)Y. Inaguma, et al.: J. Am. Chem. Soc. 133, 16920(2011).3)M. Azuma, et al.: Nat.commun. 2, 347(2011).4)K. Nabetani, et al.: Appl. Phys. Lett. 106, 061912(2015).5)M. Azuma, et al.: Dalton Trans. 47, 1371(2018).6)Y. Sakai, et al.: J. Am. Chem. Soc. 139, 4574(2017).7)I. Yamada, et al.: Angew. Chem. Int. Ed. 47, 7032(2006).8)M. A. Subramanian, et al.: J. Solid State Chem. 151, 323(2000).9)J. A. Alonso, et al.: Appl. Phys. Lett. 83, 2623(2006).10)Y. W. Long, et al.: Nature 458, 60(2009).11)I. Yamada, et al.: Adv. Mater. 29, 1603004(2017).228日本結晶学会誌第60巻第5・6号(2018)