ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No5-6

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概要

日本結晶学会誌Vol60No5-6

池田卓史,山本勝俊図2親水部と親油部が交互に連なってできたKCS-2の一次元細孔(左)と細孔壁を形成している局所構造(右).(1-D micropore structure constructed byalternate stacking of hydrophilic layer and lipophiliclayer(left), and a local structure which forms porewall(right).)効内径0.73 nmの一次元細孔を有している.Q 2ケイ素種については,層状ケイ酸塩の層間を化学修飾で架橋した多孔性物質(Interlayer-Expanded Zeolite)8)において,同様の局所構造をもつことが知られている.またc軸に沿って見える骨格のトポロジーはAFI型ゼオライト構造と類似する(AFIは国際ゼオライト学会が定義するゼオライト骨格のトポロジーに与えられるコードの1つ).この一次元細孔は図2に示すように,水酸基を伴うQ 2ケイ素種を含むアルミノシリケートからなる親水的なナノ空間とフェニレン基からなる親油的なナノ空間が交互に積み重なることで形成される.さらにその壁を詳しく見ると,酸素8員環の孔と2つの平行に並んだフェニレン基の間にも,有効内径が0.3~0.4 nm程の小さな孔ができていることがわかる(図2右).フェニレン基はc軸の周りにある程度回転できると考えていて,親油部の側面からも回転ドアをくぐるようにゲスト分子が通過できると推定された.また吸着水のほとんどは,親水部のナノ空間に分布していることがわかった.以上の構造的特徴から,KCS-2はあたかもLangmuir-Blodgett膜を結晶化させたような,新しいタイプのミクロ多孔体と見なすことができる.このユニークで精巧な結晶構造は,ハイブリッド化による大きな恩恵であり,規則性多孔体の新領域開拓の観点からも大変興味深い.3.吸着特性上記のように,KCS-2には親油的なナノ空間と親水的なナノ空間が交互に繋がっている.これを反映して,KCS-2は親油的分子と親水的分子の両者に対して高い親和性をもち,実際にノルマルヘキサン分子と水分子の両者に対して大きな吸着量を示した(図3).吸着等温曲線においてそれらの吸着量はともに相対圧0~0.05の範囲で急激に増加している.一方で,かさ高い1,3,5-トリメ図3KCS-2のノルマルヘキサンおよび1,3,5-トリメチルベンゼン(左)および水蒸気(右)の298 Kにおける吸脱着等温曲線.各マーカーについて黒塗りは吸着側,白抜きは脱着側を示す.(Variable gasadsorption and desorption isotherms;(left)n-hexaneand 1,3,5-trimethyl- benzene at 298 K and(right)water vapor at 298 K.)チルベンゼン分子を吸着質に用いた場合には,そのような急激な吸着量増加は見られなかったことから,KCS-2ではゼオライトと似たナノ細孔中への吸着現象が起きていると推定される.このような分子の構造やサイズの違いを識別する形状選択的な吸着挙動と両親媒性から,KCS-2は新規な吸着剤や分子篩としての応用が期待される.4.固定化酵素反応にむけてさらにKCS-2の外表面も特異な吸着能を有することがわかった.近年,酵素の固体表面への固定化(吸着)はドラッグデリバリーや不均一系酵素反応への応用を目指して盛んに研究が行われ,酵素の支持体として多孔質材料が有力視されている.9)特に酵素が低濃度領域でも大きな吸着量を示す材料が望ましいとされる.トリス塩酸緩衝液(20 mM,pH 7.5)中での卵白リゾチームの固定化実験から,KCS-2はリゾチームの平衡濃度が低い場合(0.05 mg・mL-1)において,従来優れているとされるメソポーラスシリカを凌ぐ高い平衡吸着量を示すことがわかった.また緩衝液で三回洗浄しても,KCS-2からのリゾチームの脱離はほとんど起きなかった.リゾチームは,その分子サイズ(約3.0 nm×3.0 nm×4.5 nm)が明らかにKCS-2の細孔径よりも大きく,結晶表面に吸着していると推定される.現在,この固定化機構の解明に向けた検討と,有望となりうる酵素反応の探索を進めている.文献1)Y. Inokuma et al.: Nature 495, 461(2013).2)S. Kitagawa: Angew. Chem. Int. Ed. 54, 10686(2015).3)R. Millini and G. Bellussi: Catal. Sci. Technol. 6, 2502(2016).4)T. D. Bennett et al.: Nat. Chem. 9, 11(2017).5)K. Yamamoto et al.: Chem. Lett. 43, 376(2014).6)T. Ikeda et al.: Angew. Chem. Int. Ed. 54, 7994(2015).7)F. Izumi: http://fujioizumi.verse.jp/download/download.html8)S. Inagaki et al.: Chem. Commun. 5188(2007).9)L. Cao et al.: Carrier-bound Immobilized Enzymes:Principles,Application and Design, p.1, Wiley-VCH, Weinheim(2005).226日本結晶学会誌第60巻第5・6号(2018)