ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No4

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概要

日本結晶学会誌Vol60No4

クリスタリットを調べることで酒石酸に非対称な二種類の分子が存在することを発見した.その後,自然界の結晶あるいは分子には右手系,左手系が多く存在することがわかった.ところが生命を形成するアミノ酸は左手型のみである.この生体におけるキラリティーの偏りは,医薬品において結晶あるいは分子のキラリティーを作り分けすることの重要性につながっている.(理化学研究所放射光科学研究センター田中良和)交換歪Exchange Striction陰イオンを介した交換相互作用が2つの磁性イオンに働いた結果,系のエネルギーを下げるためにイオンや電子雲が変位して電気分極を生じる.その大きさは2つの磁性イオンの磁気モーメントの内積に依存する.例としては,DyFeO 3やCa 2CoMnO 6などが挙げられ,一般的に共線的な磁気構造になる程,その効果は大きくなる.(東北大学理学研究科物理学専攻石井祐太)円偏光Circular Polarization光やX線は電磁波に含まれる.電磁波は電場と磁場でんぱがマクスウェル方程式に従って空間を伝播する.電場,磁場ベクトルは電磁波が進行する方向に対してかならず垂直であるが,その方向は定まっていない.今,ある地点でxyz直交座標を決めてz方向に進行する電磁波を考える.この場合,一般的に電場の向きはxy平面内のどの方向にあっても構わない.電場の向きが完全にある方向に平行にそろっている状態を,直線偏光という.そのような電磁波を重ね合わせるとさまざまな偏光状態が表現できる.例えば電場の向きがx軸に平行な電磁波に対し,y軸に平行な電磁波の位相をちょうど1/4周期ずらして重ね合わせると,完全な円偏光になる.このときずらし方が遅れているか進んでいるかの違いによって右円偏光あるいは左円偏光の電磁波になる.ある地点の円偏光の電場ベクトルは,一周期でxy平面を一回転する.(理化学研究所放射光科学研究センター田中良和)キラリティーChirality右手と左手の関係のようにお互いに鏡に映した像になっていて,平行移動や回転操作では重ね合わせることができない性質.はじめてキラリティーに関する現象が観測されたのは19世紀になってからである.パスツールは,酒石酸の溶液中を透過する光の偏光面の回転方向,および結晶の形偏光依存性Polarization Dependenceある対象物に対して電磁波がなんらかの相互作用するとき,その現象が電磁波の偏光状態に依存することを偏光依存性という.特に偏光を入れ替えることによる違いは二色性と呼ばれる.二色性には直線二色性と円二色性とがある.直線二色性は,電場ベクトルの向きが対象物の何らかの軸に対して平行であるか,垂直であるかによる現象の違いである.多くの場合,電場ベクトルの向きの違いによる電磁波の吸収強度の差を表している.円二色性の場合は,右円偏光,左円偏光による現象の違いのことを表している.対象物質がキラリティーをもつ場合,吸収に円二色性が観測される.対象物質が強磁性である場合も,吸収に円二色性が観測される.この現象は磁気円二色性と呼ばれる.(理化学研究所放射光科学研究センター田中良和)円二色性Circular Dichroism円偏光は直行する電場と磁場の振動面が光の進行に伴い回転するが,回転の方向によって,右円偏光と左円偏光とがある.円二色性とは,吸収波長領域において,光学活性物質の左右円偏光の吸収度が異なる現象のことである.透過速度も異なるために,透過光は楕円偏光となる.円二色性の大きさは,左円偏光に対する吸光度A Lと右円偏光に対する吸光度A Rとの差である円二色性吸光度ΔA=AL-AR,あるいはモル吸光係数の差,Δε=εL-εRで表される.波長スキャンをしたものをCDスペクトルと呼ぶが,一対の鏡像異性体は符号が逆転した鏡に写した形のスペクトルとなる.絶対配置,光学純度だけではなく,キラルな化合物の構造情報を与える.溶液状態での測定が普通であるが,粉末結晶をKBr disc法で,結晶,膜などの凝集状態をUCS分光計(UniversalChiroptical Spectrophotometer)で測定することも可能になっている.(東京理科大学研究推進機構総合研究院黒田玲子)210日本結晶学会誌第60巻第4号(2018)