ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No1

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概要

日本結晶学会誌Vol60No1

クリスタリットの式から速度を消去すると,ユゴニオ圧縮曲線は(P=ρ0A 2(1-V/V 0))/[1-B(1-V/V 0)]2という関数となる.ここで,Pは衝撃圧力,Vは衝撃圧力下での比体積,ρ0は初期密度,V 0は初期比体積である.衝撃圧縮により物質がこの圧縮曲線に沿って圧縮されるのではないことに注意.参考文献近藤建一:圧力技術, 30, 136(1992).(兵庫県立大学大学院物質理学研究科福井宏之)高圧型含水マグネシウムケイ酸塩Dense Hydrous Magnesium Silicate(DHMS)鉱物と水の高温高圧相平衡実験により見出された一連のマグネシウム,ケイ素,水素を含む酸化物(含水鉱物)のことを指す.地球内部へのプレートの沈み込みとともに地球深部へ水成分を運搬する役割を担うと考えられ重要視されている.アルファベット相とも呼ばれ,安定な温度圧力条件や組成の異なるA相からH相(phase A,phase B…,phase H)が知られている.Ringwoodand Major(1967)1)により,phase A,B,Cが報告されたのが最初である.1)A. E. Ringwood and A. Major: Earth Planet. Sci. Lett. 2, 130(1967).(愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター土屋旬)フィロケイ酸塩Phyllosilicate(Layered Silicate, Sheet Silicate)雲母族,緑泥石,粘土鉱物,滑石,蛇紋石などを含む鉱物グループ.層状結晶構造をもち,1方向のへき開を示すことが多い.多くの場合,SiO 4四面体が頂点共有して形成した四面体層,MgO 6などからなる八面体層,また組成によってその他の陽イオン層,さらに層間にOH基やH 2O分子を含む含水鉱物である.熱水変性,風化などにより生成される.(愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター土屋旬)マントルMantle地球の地殻と核の間にあるかんらん岩を主成分とする岩石で構成されている層.地殻とマントルの境界(モホロビチッチ不連続面;海洋では深さ約5~6 km,大陸では深さ約20~70 km)から核-マントル境界(深さ約2,900 km)までの範囲を指す.地殻から深さ約410 kmまでを上部マントル,深さ約410~660 kmを遷移層,深さ約660~2,900 kmまでを下部マントルと細分される.マントル内ではいくつかの地震波速度の不連続な増加が観測され,410 km地震波不連続面は(Mg,Fe)Si 2O 4組成をもつα相(かんらん石)からβ相(ワズレアイト;変形スピネル型構造),520 km不連続面はβ相からγ相(リングウッタイト;スピネル型構造),660 km不連続面はγ相からGdFeO 3型ペロヴスカイト構造をもつ(Mg,Fe)SiO 3ブリッジマナイトと岩塩型構造をもつ(Mg,Fe)Oフェロペリクレースへの構造相転移が原因であるとされている.近年では下部マントル最下部2,700~2,800 km付近での複雑な地震波不連続を示す層(D”層)が,ブリッジマナイトからCaIrO 3型構造をもつ(Mg,Fe)SiO 3ポストペロヴスカイト相への構造相転移により説明されている.また,地球以外の地球型惑星や岩石衛星などにもマントルが存在すると推定されている.(愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター土屋旬)充填氷Filled Ice氷構造中の空隙に小さい分子や原子が取り込まれ,化合物が形成されたもの.初め氷IIにHe原子が取り込まれた構造が報告され,1)次いで氷IIと氷Icに水素分子が取り込まれた構造が報告された.2)この2つの構造は氷と水素との化合物という意味で,前者はcompound 1(C1),後者はcompound 2(C2)と名づけられた.その後,ガスハイドレートの研究が盛んになり,メタンハイドレートの高圧相として氷Ihに類似する氷構造にメタン分子が取り込まれた構造が報告され,filled ice Ih構造と呼ばれた.3)その後いくつかのガスハイドレートが高圧下でこのfilled ice Ih構造をとることが報告された.filledice構造に対する日本語として,充填氷という言葉が使われている.1)D. Londono: Nature 332, 141(1988).2)W. Vos: Phys. Rev. Lett. 71, 3150(1993).3)J. Loveday: Phys. Rev Lett. 87, 215501(2001).(立正大学地球環境科学部平井寿子)(氷における)プロトンの秩序化Proton Ordering in Ice Structures氷結晶中では,酸素の位置は固定されているが,プロトンの位置は完全に動的なものとする「氷の統計モデル」(ポーリング,1935)が受け入れられている.氷におけるこのようなプロトンの配置は「無秩序であると」表現される.無秩序というのはプロトンの配置が不規則という意味ではなく,出現する配置が1通りでないという意味である.1)中性子回折によると,プロトンは水素結合間の2個の酸素原子間の2つの位置に,確率1/2で存在している.これは時間的にも空間的にも平均化された構造である.このプロトンの無秩序な配置も,極低温下で熱振動が抑制され,そして,長時間かけることによって,ゆっくりと最も低エネルギーの位置に固定されると考えられる.このような状態になることをプロトンの秩序化という.このとき,プロトンは水素合間の1つの位置に確率1で存在する.氷II(すでに秩序氷)以外のすべての“高温氷”にはプロトンの秩序化した“低温氷(秩序氷)”が存在するとされている.氷Ihの秩序氷XIは強誘電体となる可能性が議論されている.1)前野紀一:氷の科学,新装版第3刷, p.77,北海道大学図書刊行会(1995).(立正大学地球環境科学部平井寿子)64日本結晶学会誌第60巻第1号(2018)