ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No1

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概要

日本結晶学会誌Vol60No1

日本結晶学会誌60,1(2018)?特集鉱物結晶学で解き明かす地球惑星ダイナミズム特集「鉱物結晶学で解き明かす地球惑星ダイナミズム」にあたって特集号担当:中塚晃彦,杉山和正,後藤義人Akihiko NAKATSUKA, Kazumasa SUGIYAMA and Yoshito GOTOH: Earth andPlanetary Dynamism Revealed by Mineral Crystallography鉱物結晶学は鉱物という物質を対象としているため,鉱物を扱う地球惑星科学・物性物理・固体化学・材料科学など実にさまざまな学術領域と接点をもって発展してきました.鉱物結晶学者は,“結晶学による物質科学研究”が共通の土台であることは間違いありませんが,それをどの方向に応用するかによって目指す方向性が異なってきます.本誌において,これまでにも鉱物結晶学に関するトピックスが扱われてきましたが,日本結晶学会の他分野との接点を意識してか,その多くは物性物理・固体化学・材料科学などの分野へのアプローチに傾倒したものでした.日本結晶学会の他分野の方々には馴染みが薄いかもしれませんが,鉱物結晶学が目指すもう1つの大きな方向性として,地球惑星科学へのアプローチがあります.これは,結晶学という切り口で物質科学的立場から地球惑星を理解しようとするものです.そこで,本特集号では,「鉱物結晶学で解き明かす地球惑星ダイナミズム」と題して,地球惑星科学へのアプリケーションに焦点を当てた鉱物結晶学の最新トピックスをまとめました.ここで言う地球惑星ダイナミズムとは,マントル対流など地球惑星内部で起こっている流体力学的運動とそれに伴うプレート運動・地震・火山活動などの諸現象をはじめ,天体衝突などの外的影響も含め,地球惑星が誕生・進化してきたプロセスの中で起こったダイナミックな現象すべてを指します.その理解には,地球惑星物質である鉱物の形成過程,相転移,物性など物質科学的研究が重要な役割を果たしています.今回,このような観点で鉱物結晶学分野において活発に研究をされている8名の方々に執筆をお願いしました.本特集号に掲載した記事を,研究のアプローチの相違に基づき,次の2つのカテゴリーに分類しました.(1)鉱物の微細組織と結晶学(2)地球惑星内部における鉱物の構造と物性カテゴリー(1)では,天然に産する鉱物の微細組織に残された構造情報からその形成過程・形成環境を読み取り,地球惑星活動の履歴を解明しようとする研究を取り上げます.ここでは,隕石中で発見された鉱物の微細組織から高温高圧下での相転移現象と生成環境を読み解く研究,天然ダイヤモンドの微細組織から巨大隕石衝突の履歴を知ろうとする研究,地質学的プロセスで形成された鉱物の結晶構造・微細組織・外形などを通じて鉱物形成のカイネティクスを明らかにしようとする研究,以上の記事を紹介いたします.カテゴリー(2)では,そのような地球惑星環境(圧力や温度など)を再現し,その条件下での鉱物の構造・物性情報から,地球惑星内部での相転移現象や地震波速度など地球惑星現象の解明を目指した研究を取り上げます.ここでは,高温あるいは高圧下における地球内部関連物質の単結晶X線構造解析から地球内部での相転移挙動や原子の電子状態を推定しようとする研究,単結晶X線非弾性散乱法による地球内部物質および関連物質の弾性特性から地球内部構造を推定しようとする研究,実験では検知し難い超高圧条件下での鉱物中の水素や水素結合の挙動を第一原理計算法から調べ地球深部の“水”の大循環メカニズムを推定しようとする研究,ガスハイドレートの結晶学的・物性学的知見とそれらから読み取れる氷天体の内部構造についての研究,以上の記事を紹介いたします.本特集号が,われわれを取り巻く地球惑星という壮大な世界を理解するために,結晶学がいかに重要な役割を果たしているかを知っていただくきっかけになれば幸いです.日本結晶学会誌第60巻第1号(2018)1