ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No1

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概要

日本結晶学会誌Vol60No1

クリスタリットモガン石Moganite1984年にスペイン,グラン・カナリア島の溶結凝灰岩(イグニンブライト)中から見つかった新鉱物であり,名前は産地の地名にちなんで付けられた.1994年に国際鉱物学連合はモガン石の新鉱物としての認定には問題があると指摘したが,2007年に再度認定された.化学組成はSiO 2で若干の“水”を含むことからStrunzの分類ではシリカファミリーではあるが,石英とは別のグループに属する.結晶構造は石英の右水晶と左水晶の構造を格子単位で繰り返した構造に類似する.単斜晶系(I2/a).玉髄や瑪瑙中に普遍的に産する.(東北大学学術資源研究公開センター長瀬敏郎)ブリッジマナイトBridgmanite地表から約660~2,900 kmの深さに存在する下部マントルにおける主要構成鉱物の1つ.地球の約半分を占める下部マントルの約80%はこの鉱物で構成されていると推定されることから,地球で最も存在度の高い鉱物相であると考えられている.下部マントルにおける実際のブリッジマナイトは若干のFeO成分とAl 2O 3成分を含みうるが,第一近似的にはその組成式をMgSiO 3と表すことができる.その化学組成から以前はMg-ペロブスカ1イトと呼ばれていたが,最近隕石中で発見)されたことから,2014年に国際鉱物学連合により「ブリッジマナイト(bridgmanite)」という鉱物名が承認された.この鉱物名は,高圧物理学の礎を築いたパーシー・ブリッジマンにちなむ.その結晶構造は,GdFeO 3型構造すなわち空間群Pbnm(直方晶)のペロブスカイト型構造をとる.近年,ブリッジマナイトは125 GPa・2,500 Kでポストペロブスカイトと呼ばれるCaIrO 3型構造(直方晶;空間群Cmcm)へ相転移することがわかった.この相転移が,長年未解決であった下部マントル最下部にあるD”層(深さ約2,700~2,900 km)で観測される地震波速度不連続の原因であると考えられている.1)O. Tschauner, C. Ma, J. R. Beckett, C. Prescher, V. B. Prakapenkaand G. R. Rossman: Science 346, 1100(2014).(山口大学大学院創成科学研究科中塚晃彦)スピネル地質温度計Spinel Geothermometer複数の鉱物の化学組成を用いて熱力学計算手法により,岩石や鉱物の形成温度・圧力を推定する方法を,地質温度計・地質圧力計という.また,両者を合わせて地質温度圧力計ともいう.地質温度圧力計には,元素の交換反応を利用した交換温度計,ソルバス温度計,鉱物増減反応や鉱物化学組成を利用した地質温度圧力計がある.そのうち,交換温度計は,平衡に共存する複数の鉱物間の電荷とイオン半径が類似した元素どうしの元素分配の温度依存性を利用した方法であり,MgとFe 2+のイオン交換反応を利用したものに,カンラン石-スピネル地質温度計,菫青石-スピネル地質温度計,サフィリン-スピネル地質温度計などがある.(筑波大学生命環境系地球進化科学専攻興野純)ウルボスピネルUlvospinelスピネル鉱物の1つである.国際鉱物学連合(IMA)の新鉱物鉱物名委員会(CNMMN)から承認されている化学組成はFe 2+2TiO 4であるが,スピネル構造に基づくAB 2O 4の表記では,TiFe 2+2O 4である.このとき,Fe 2+がA(四面体)席とB(八面体)席の半分を占め,残りのB(八面体)席の半分をTi 4+が占めていることから,ウルボスピネルは逆スピネル構造に分類される.構造式は[Fe T 2+]M[Fe 2+Ti]O 4と表される.ウルボスピネルは,同じ逆スピネル構造である磁鉄鉱(Fe 2+Fe 3+2O 4)と2Fe 3+⇔Fe 2++Ti 4+の複合置換によって固溶体を形成する.チタン磁鉄鉱鉱石,苦鉄質岩中などに,磁鉄鉱の{100}に平行に非常に微細な離溶葉片として産出する.(筑波大学生命環境系地球進化科学専攻興野純)MELTSMark S. Ghiorsoによって開発された500℃から2,000℃の温度範囲と0から2 GPaの圧力範囲にわたるケイ酸塩メルト(SiO 2?TiO 2?A1 2O 3?Fe 2O 3?Cr 2O 3?FeO?MgO?CaO?Na 2O?K 2O?P 2O 5?H 2O)の化学物質移動および液相-固相平衡モデルを計算するフリーソフトウェア.固相の化学組成は,長石[CaAl 2Si 2O 8?(Na,K)A1Si 3O 8固溶体],カンラン石[Ca(Mg,Fe)SiO 4?(Mg,Fe)2SiO 4固溶体],斜方輝石[(Mg,Fe)2Si 2O 6固溶体],輝石[(Mg,Fe 2+)2Si 2O 6?Ca(Mg,Fe2+)Si2O6?CaTi1/2(Mg,Fe)1/2(A1,Fe3+)SiO6?Ca(A1,Fe3+)(A1,Fe3+)SiO6?Na(A1,Fe3+)Si2O6固溶体],菱面体酸化物[(Mg,Mn,Fe 2+)TiO 3?(Fe 3+)2O 3固溶体],スピネル[(Mg,Fe 2+)(Fe 3+,A1,Cr)2O 4?(Mg,Fe 2+)2TiO 4]としている.(筑波大学生命環境系地球進化科学専攻興野純)ユゴニオ圧縮曲線Hugoniot Compression Curve衝撃圧縮により到達できる条件を圧力-比体積平面に表した曲線をユゴニオ圧縮曲線と呼ぶ.衝撃圧縮データは,質量・運動量・エネルギーに関する3つの保存則から導出される関係式(Rankine-Hugoniotの式)に基づき解析される.この関係式によると,密度(あるいは比体積)と圧力は,衝撃圧縮されている物質の粒子速度,物質中を伝搬する衝撃波速度,および衝撃圧縮前の初期密度を用いて表される.圧力がユゴニオ弾性限界を超えて衝撃波が塑性波として物質中を伝搬する状態では,衝撃波速度U sは粒子速度u pの一次関数(U s=A+Bu p)としてよく表される.この関係を用いてRankine-Hugoniot日本結晶学会誌第60巻第1号(2018)63