ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No1

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概要

日本結晶学会誌Vol60No1

ガスハイドレートの低温~高温・高圧下での構造・物性変化と氷天体内部構造の推定比較的高温低圧側では,既知のゲスト自由回転相(HH-FIc)があり,その高圧側にゲストの部分的配向相(正方晶)があり,その高圧側にさらに別の配向相(HH-HP1)(おそらく完全な配向相)が存在すると考えられる.固体水素では回転の秩序化の程度によってⅠ,Ⅱ,Ⅲ相が存在する.Ⅰは完全な自由回転相,Ⅱは部分的回転相,Ⅲはすべての回転が止まった相である. 25)水素単体の場合,分子の回転を止めるには160 GPaという非常に高い圧力が必要である.これに対してHHの場合,上述の段階的な配位子秩序化の進行が正しいとすれば,40 GPaで水素分子の回転が止まることになる.フレームワーク水分子との間の相互作用の効果がいかに大きいかを示唆している.4.4配向秩序化と相転移図4はMHとHHについてゲストの配向秩序化に誘起される相転移とホストの水素結合対称化に関連する相変化を概念的に表したものである.MHとHHは初期の構造が直方晶と立方晶と異なり,ゲスト秩序化に呼応する構造変化は異なるが,おおむね以下のような共通する相変化の描像が得られる. 28)MHのFIh構造は約20 GPaでゲストの配向秩序化が起き,これに伴い直方晶の軸比が変わる.40 GPaでは別の配向様式への相変化が起きフレームワークも変化する.そして,70~80 GPaでホストの水素結合対称化に関連する相変化が起きると考えられる.HH-FIcの場合は,約20 GPaでゲストの配向秩序化に誘起され立方晶から正方晶となり,45 GPaで別の配向様式か全ゲストの回転が停止する相変化が起き,さらに63~70 GPaでホストの水素結合対称化に関連する相Methane hydrateguestHydrogen hydrateOriginal FIIcScubic図4hosthostguestOriginal FIIhSorthodisordereddisorderedsphericalGuest ordered FIIhSorthoAxial ratiochangewithin samecrystal systemPartially ordered+20 40 70Guest ordered FIIcStetracrystal systemchangeHH-HP1lower symmetrydifferent orderingPartially ordered manner or totallyLowered symmetry(e.g. ellipsoidal)20 40 ~70Pressure (GPa)日本結晶学会誌第60巻第1号(2018)MH-HP1lower symmetrydifferent orderingor totally orderedMH-HP2 ?Symmetrizationof hydrogen bondHH-HP2 ?Symmetrizationof hydrogen bondMH-FIhとHH-FIcにおけるゲスト分子配向秩序化による相転移とホスト水素結合対称化による相転移の概念図.(Illustration of stabillizing mechanismof MH-FIh and HH-FIc induced by guest orientationalordering and host symmetrization of hydrogenbond.)28)変化が起きると考えられる.充填氷構造をとるガスハイドレートの中で,MHとHHの卓越した高圧安定性はゲスト-ホスト間の相互作用によるであろうことは前にも述べたが,具体的には,ゲストの配向秩序化が段階的に進み相互作用が強化されていき,より安定化されていく.さらに,高圧下ではホストの水素結合対称化により構造が堅固なものになっていくと考えられる.MHおよびHHとも,40~45 GPa以上の高圧相(MH-HP1とHH-HP1)の詳細や,70 GPa付近で観察される高圧相と水素結合対称化との関連,および,29 K以下でHHに予測さ27れるホストのプロトン秩序化)の実験的検証が次なる課題と考えられる.5.高温物性5.1惑星科学における高温物性の重要性以上は室温~低温・高圧物性について解説してきたが,ガスハイドレートの高温高圧物性研究はきわめて限られていた. 29),30)MHやHHは原始星から太陽系内外の氷天体まで宇宙に広く存在することが予測されており,そこではハイドレートは広範な温度圧力条件下に置かれていると思われる.例えば,タイタンの氷マントル~核の条件は3~6 GPa,300~1,000 Kと見積もられ, 31)氷マントル中のMHが大気中のメタンガスの供給源となっていると推定されている.6),13)また,海王星の氷マントル最上部は10~20 GPa,1,000~2,000 Kと推定され, 32)MH-FIhの存在の可否や新たな高温高圧相の存在の可能性などきわめて興味深い.しかし,MH-FIhが高温下のどこまで安定に存続するのか,融解するのか,固体メタンと高圧氷に固相分解するのかさえもわかっていない.そこでまず,MHの高温安定領域と分解あるいは融解を明らかにするため,バンドヒーターを用いた外熱式DACを用い,2~51 GPa,298~653 Kの条件で高温高圧実験を行った.そして,室温からの連続的なその場ラマン分光とX線回折によりMH-FIhの安定領域を決定し,分解曲線を得た.5.2 MH-FIhの高温安定領域と分解曲線の決定すべての連続その場ラマン分光測定によりMH-FIhは固体メタンと氷Ⅶに固相-固相分解することが明瞭に示された.分解条件は,例えば,5.6 GPaで393 K,26.1 GPaで533 K,40.3 GPaで633 Kである(図5).これらの結果より分解曲線が推定された.ラマン分光に加え,得られた分解曲線を挟む上下の温度まで加熱した試料に対してX線回折を行い,高温側では固体メタンと氷Ⅶが,低温側ではMH-FIhが存在することを確かめた.得られた解33),34曲線は氷Ⅶや固体メタンの融解曲線)より約200 Kも低いものであった.本実験の結果は,2つの先行研究とかなり異なる結果であったが,この理由として,1つの先行実験はアンモニアを含む異なる成分系での実験で59