ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No1

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概要

日本結晶学会誌Vol60No1

ガスハイドレートの低温~高温・高圧下での構造・物性変化と氷天体内部構造の推定aFIIhS+Ice VIIsH+Ice VIFIIhSc1.8 GPaFluid methane12-hedm12-hedsHIce VII579112θ(deg)1.8 GPaにおける時分割ラマン分光によるCH振動モードの変化を,図2dは各ケージのメタン分子の波数と各ケージの存在比を示している.図2cと2dはsⅠの12面体は保たれ,sHの12面体として受け継がれて,また,sⅠの14面体がsHの12面体,変形12,20面体に組み替えられていくことを示している.sH-FIh転移に関して,図3aは1.8 GPaにおける時分割XRDパターンを,図3bはsHとFIhの回折線の強度変化を示している.一定時間後,突然sHが消失し,FIhのフレームワークが形成され,強度はかなり小さいが固体メタンも観察される.図3cは1.8 GPaにおける時分割Ramanスペクトルを,図3dは各ケージメタンの波数変化とケージの存在比を示したものである.図3cと3dはsHの急激な崩壊と同時に流体メタンとFIhが現れ,流体メタンの強度の低下に従ってFIh中のメタンの強度が増加してFIhが完成されていくことが示されている.CCDカメラでは,劇的な変化がとらえられた.透明なsHでみたされた試料室が突然茶~黒くなり,流体あるいは固体メタンが放出されたことが示された.筆者らのこれまでの研究により,MHの崩壊でメタンが放出されると試料が茶色~黒くなる.これはおそらくメタンの粒界での光の散乱によっている.その後,黒い流体や固体メタンがFIhに徐々に吸収され,透明になっていく様子が観察された.試料の観察からもいったんsHが崩壊し,FIhが形成されることが示された.3.3 sⅠ-sH,および,sⅠ-FIh転移メカニズムsⅠ-sH転移において,sⅠの12面体が保持され,14面体がほかの12面体,変形12面体と20面体ケージへと組み日本結晶学会誌第60巻第1号(2018)360FIIhS240120020-hed2900 3000Raman shift (cm -1 )I/I 0b1.0sHFIIhSsH 0210.5sH 122sH 114FIIhS 011FIIhS 002FIIhS 213fcc methane 111 solid methane0.00 100 200 300 400 500Time (s)Raman shift (cm -1 )Fraction2950294029301.00.5dsHfluid methaneFIIhS◆sH 12,m12-hed■sH 20-hed●filled ice Ih*fluid methane0.00 200 400 600Time (s)図3 sH-FIh転移における時分割XRDとラマン分光.(Time-resolved XRD patterns and Raman spectra atsH-FIh transition.)17)替えられるという特徴あるメカニズムを経由することが示された.構造の一部が保持されるという意味ではマルテンサイト型に近いが,マルテンサイト型はあくまで原子のシフトと回転で起きる転移に使われ,その意味ではこのsⅠ-sH転移には適当な表現ではない.また,sⅠとsHのXRDとRamanの強度比が逆相関して変化するのはマルテンサイト型転移の性質とは調和的でない.この転移はsⅠの12面体ケージが保持され,次の構造sHの骨格となり,sⅠの14面体ケージが次の構造sHの別のケージに組み替えられることから,遺伝子組み替えになぞらえて,いわば,“ケージ組み換え型転移”とでも表現できるのではないかと考えられる. 17)これはケージ構造間転移に特有の新たなメカニズムと考えられる.XRDとラマンの強度変化が同様の逆相関的変化をしていることから,ホストケージの組み換えとメタンの移動(拡散)が同時進行していることが示唆される.しかし,実際に酸素原子がどのように動き新しいケージを作るか,また,メタン分子がどのように古いケージから新しいケージに移動するかの解明にはさらなる実験が必要である.sHからFIh転移において,XRDとラマン,CCDカメラ観察から,sHが突然完全に分解し,メタンが放出され,その後FIhのフレームワークは比較的短時間で形成され,続いて放出された流体メタンや固体メタンを次第にFIh構造内に吸収しながらFIhが完成していくことが示された.したがって,この転移は拡散を伴う典型的な再編型メカニズムということができる.この転移はケージ構造からfilled ice構造への基本構造のまったく異なる構造間の転移であることから,この再編型メカニズムは妥当と考えられる. 17)本実験では静的圧縮下(圧力を一定に保った条件下)ではsH-FIh転移のほうがsⅠ-sH転移より遅く進行した.すなわち,メタン分子のFIh構造中への吸収が律速してFIhの完成には時間がかかった.前構造がいったん崩壊した後にフレームワークが再構築され,放出されたメタンが新しい構造内に吸収されていくメカニズムのほうが,sⅠ-sH転移におけるケージ組み換えに伴いメタン分子も同時に移動するメカニズムと比べれば,遅く進行するというのは妥当である.また,sH-FIhの再編型転移において,sHの崩壊後,FIhのフレームワークだけは短時間で形成されるが,メタンの吸収は徐々に遅い速度で進んだ.転移に際し,ホスト形成とゲスト移動との速さの異なることもハイドレートに特異的な性質と考えられる.4.低温物性4.1ゲストの配向秩序化による相転移高圧相転移の章でCO 2ハイドレートのラットリングに類似する運動を述べたが,ほかのハイドレートでも,ゲストが親水性か疎水性かにもよるが,ゲストはホストと57