ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No1

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概要

日本結晶学会誌Vol60No1

X線非弾性散乱法による単結晶のフォノン物性測定と地球内部科学2827(a)320300C 11C 12Peak position [meV]26252423Elastic constant [GPa]280260240220200180K S2225240 10 20 30 40 50 60 70Pressure [GPa](b)Low Spin160140650 5 10 15 20Pressure [GPa]Peak position [meV]23222120High Spin190 10 20 30 40 50 60 70Pressure [GPa]図5フェロペリクレイスの横波フォノンエネルギーの圧力依存性.(Pressure dependence of the energy oftransverse phonon of ferropericlase.)試料の逆格子単位で表したフォノンの運動量ベクトルは(0.5, 0, 0)である.(a)実験で得られたフォノンエネルギー.(b)第一原理計算で得られたフォノンエネルギー.鉄が高スピン状態のものを白丸で,低スピン状態のものを黒丸で示す.実線および破線はアイガイドである.に対しIXS測定を行った.得られたピーク位置を圧力に対してプロットしたものが図5aである.フォノンのエネルギーは圧力とともに上昇した後,いったん変化が緩やかになり,再度上昇する様子が見てとれる.Mg 3FeO 4の第一原理計算結果では,鉄が高スピン状態にある場合と低スピン状態にある場合でこのqでのフォノンエネルギーが4 meVほど異なった(図5b).また,実験結果と計算結果とを比較してみると,約25 GPaまでは鉄が高スピン状態にあり,この圧力以上で鉄がスピンクロスオーバー転移を起こすことにより,フォノンエネルギーが上昇していき,約60 GPaで低スピン状態となると解釈できる.つまり,このフォノンはスピン転移により軟化するのではなく硬化した.この結果により,矛盾していたC ijの圧力依存性を,定性的にではあるが,うまく説明することができる.19)3.4金の圧縮異常金は,その結晶構造の単純さと化学的な安定性,およ日本結晶学会誌第60巻第1号(2018)Elastic constant [GPa]C 446055G5045403530250 5 10 15 20Pressure[GPa]図6金の弾性定数の圧力依存性.(Pressure dependenceof elastic moduli of gold.)び広い温度圧力範囲で相転移を示さないなどの性質から,圧力標準物質として多くの状態方程式が提案されており,実際多くの高圧実験で圧力マーカーとして使用されてきた.また剛性率が小さいため,高圧力下の差応力センサーとしても有用である.一方で,実験的にはC ijは1 GPa程度までしか測定されておらず,より高圧での研究が必要であった.そこでわれわれはヘリウム圧力媒体により金単結晶を加圧し,X線非弾性散乱によりC ijの決定を行った.実験により得られたC ijの圧力依存性を図6に示す.圧力の低い領域では,C 12が加圧とともに減少するという結果を得た.また5 GPa以上ではC 11とC 12の変化量が大きくなることがわかった.これらから計算される体積弾性率と剛性率(Voigt-Reuss-Hill平均)も,5 GPa付近を境に振る舞いを変えることが同じ図からわかる.体積弾性率で見られた異常は第一原理計算の結果でも認められ,その物理的機構はいまだ解明されていないが,C ijを直接測定することにより初めて顕になったと言えよう.本結果により得られた状態方程式を用いて金の体積から圧力を計算すると,これまでに報告されているもの45