ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No1

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概要

日本結晶学会誌Vol60No1

福井宏之V SV,V SH ? V SVと報告によって異なる.下部マントル主要物質であるブリッジマナイトがD”層に対応する温度圧力条件でポストペロブスカイト相転移し,このポストペロブスカイト(pPv)相は空間群CmcmのCaIrO 3型構造をとることが発見された. 14)この異方性の強い結晶構造をもつポストペロブスカイト相によりD”層の地震波速度異方性を説明しようと多くの理論計算による研究が行われた. 15)一方で,ポストペロブスカイト相転移は非常に緩やかに進行し,また合成されたpPv相を常温常圧へと回収することはできないため,弾性波速度の結晶方位依存性を実験的に測定することは非常に困難である.アナログ物質であるCaIrO 3について測定を行い,MgSiO 3について考察を行う方法がある.しかしながら,この不透明な物質の自形は針状であり,その針の幅は数十ミクロンほどしかない.このような試料のC ijを決定する場合にX線非弾性散乱法は非常に有効である.図4aに,Cmcm型CaIrO 3の結晶構造と,X線非弾性散乱測定結果に基づいて得られた弾性波速度の方位依存性を示す.この図から,c軸とa軸のなす角を二等分する方向へと伝搬する横波で非常に大きな偏向異方性を示図4(a)Velocity [km/s](b)5.04.54.03.53.02.52.0a b c a 2.0BdgTransformedtexturePacific Rim(V SH>V SV)c axispPva or b axisCentral Pacific(V SH>V SV, V SV>V SH)DeformationtextureCore5.04.54.03.53.02.5D'' layerポストペロブスカイト相の横波弾性波速度の異方性.(Transverse velocity surface plots of CmcmtypeCaIrO 3.)(a)Cmcm型CaIrO 3の結晶方位依存性.実線は振動の偏向方向が伝播面内のもので,一点鎖線は偏向方向が伝播面に垂直なものを示す.(b)観測された地震波速度を説明できるpPv型MgSiO 3のD”相内での結晶軸選択配向の模式図.すことがわかる.偏向面がc-a面内にある横波の速度がb軸に偏向したものの速度よりも速い.一方で,c軸方向やa軸方向に伝搬する波はb軸に偏向した横波速度のほうが速い.また,a-b面内を伝搬する横波は,程度は小さいが,偏向がa-b面内の横波速度がc軸に偏向した横波速度よりも速いことがわかる.またその差は伝搬速度がb軸に近いほど小さくなる.残るb-c面内を伝搬する横波については,両者の値は非常に近く,その大小関係は方位により異なる.この結果を用いて,Cmcm型CaIrO 3の格子選択配向によるD”層の局地的な横波速度偏向異方性を説明する(図4b).CaIrO 3の変形によるCmcm型CaIrO 3の組織発達では変形の方向(剪断方向)がa軸方向で,剪断面がb面となる.MgSiO 3の挙動がCaIrO 3と同じであるとすれば,Cmcm型CaIrO 3のc-a面が核マントル境界面と一致するように配列することになる.このとき,変形の方向と地震波伝搬方向の組み合わせ次第でV SH>V SV,V SH<V SV,V SH ? V SVが観測され得るため,太平洋中南部での観測結果が説明される.また,b-c面が核マントル境界面と一致するように配列しても同様に説明可能である.一方で環太平洋北西部では伝搬方向によらずV SH>V SVとなるためには,Cmcm型CaIrO 3のc軸が垂直方向を向いていればよい.この領域で,下部マントルが沈み込みポストペロブスカイト転移が起きているとすれば,ブリッジマナイトの変形発達組織から形成されるポストペロブスカイト相の組織はc軸が垂直方向を向くと考えられる.3.3フェロペリクレイスの横波音響フォノン16)下部マントルの主要構成物質がブリッジマナイトであることはすでに述べたが,2番目に重要な物質としてフェロペリクレイス(鉄を含む酸化マグネシウム)がある.フェロペリクレイス中の鉄のスピン状態が加圧により高スピンから低スピンへと転移することにより,物性値に変化が現れることがわかっている.C ijの圧力変化も調べられたが,可視光を用いた測定では全弾性定数が軟化するという結果やC 11とC 12だけが軟化するという結果が示された.一方でIXSではC 44のみが軟化するという結果が示されており,コンセンサスは得られていなかった.理論計算に基づき,格子振動周波数が小さい場合には,スピン転移に伴って体積弾性率,すなわちC 11およびC 12が軟化し, 17),18)C 44は軟化しないことが示された. 18)C 11およびC 12の軟化が低周波格子振動と関係したことから,C 44の軟化は高周波格子振動と関連している可能性が考えられた.これを確かめるために,波数の大きなフォノンの振る舞いを高圧下で調べる必要があった.C 44に対応するフォノンは[1 0 0]へと伝搬する横波モードである.そこで,フォノンの波数ベクトルqが逆格子単位で(0.5, 0, 0)の横波モードに着目し,Mg 0.8310Fe 0.1594O44日本結晶学会誌第60巻第1号(2018)