ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No1

ページ
49/76

このページは 日本結晶学会誌Vol60No1 の電子ブックに掲載されている49ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol60No1

X線非弾性散乱法による単結晶のフォノン物性測定と地球内部科学ジマナイト(ペロブスカイト型MgSiO 3)とポストペロブスカイト型CaIrO 3は弾性スティフネス定数C ijの決定により下部マントル構造について議論した例である.フェロペリクレイスはブリルアンゾーン中心から離れたところでのフォノンの振る舞いを測定した例である.金は高圧下でのC ijの決定により一次の圧力標準物質としての確立を試みた例である.3.1ブリッジマナイト弾性における陽イオン置換効果10)とLLSPVの起源地球の深さ約660~2,900 kmまでは下部マントルと呼ばれる.三次元地震波トモグラフィの結果から,下部マントル中部(約2,000 km)以深で局地的な地震波速度異常が観測されている. 11)アフリカ大陸と太平洋の下部では,その他の地域に比べ横波地震波速度V Sが小さく,バルク音速V B(V B2=V P2-4V S2 /3,VP:縦波地震波速度)が大きい.このことは地震波速度の逆相関として知られており,この逆相関が観察されている領域をLarge LowShear Velocity Provinces(LLSPVs)と呼ぶ.LLSVPを説明するためのさまざまなモデルが提案されたが,通常V BとV Sは正の相関を示すことから,その原因は不明であった.われわれは,下部マントル主要構成物質であるブリッジマナイト(ペロブスカイト型結晶構造をもつMgSiO 3)に着目した.主要な地球内部物質は苦鉄ケイ酸塩であるが,ブリッジマナイトの弾性に及ぼす鉄の効果はよくわかっていない.われわれは,ブリッジマナイトの弾性が陽イオン置換によりどのように変化するかをX線非弾性散乱により調べた.圧力24 GPa温度1,500℃で合成されたMgSiO 3およびMg 0.943Fe 0.045Al 0.023Si 0.988O 3ブリッジマナイトの単結晶から得られたC ijと密度を表1に,それらにより計算された弾性波速度の方位依存性を図3に示す.二価の鉄とアルミニウムが固溶することにより,縦波速度の最大値(b軸方向)と最小値(c,a軸方向)はともに上昇し,横波速度はともに減少している(c,a軸方向)ことが見てとれる.異方性については,2×(V MAX-V MIN)/(V MAX+V MIN)×100[%](V MAX:最大速度,V MIN:最低速度)と定義されるAcoustic Anisotropyについて考える.陽イオン置換によりV Pは8.81%から8.92%へ,V Sは12.4%から13.4%へと,異方性が大きくなる.C ijから体積弾性率と剛性率を計算してみると,やはり陽イオン置換によりそれぞれ上昇,減少していることが明らかとなった(表1).これは常温常圧での測定結果であるが,陽イオン置換により,地震波速度の逆相関を示すLLSVPを説明できる可能性が示された.文献値を用いて高温高圧条件へと外挿しモデルを立てると,LLSVPで見られる速度異常(ΔV B/V B=1%,ΔV S/V S=-1%)は,2.7%の二価鉄の増加と113 Kの温度上昇で説明できる.日本結晶学会誌第60巻第1号(2018)表1X線非弾性散乱により決定したブリッジマナイトの弾性率と弾性波速度.(Elastic moduli and elasticwave velocities of bridgmanite determined by IXS.)Velocity [km/s]Velocity [km/s]MgSiO 3Mg 0.943Fe 0.045Al 0.023Si 0.988O 3KS236(4)244(3)G166(2)165(1)[GPa]VB7.58(6)7.66(5)VS6.37(4)6.32(2)[km/s]11.411.211.010.810.610.410.210.07.06.86.66.46.26.05.8(a)11.411.211.010.810.610.410.210.0a b c a(b)5.6a b c a 5.6図3ブリッジマナイトの弾性波速度の結晶方位依存性.(Velocity surface plots of bridgimanite.)実線はMgSiO 3で破線はMg 0.943Fe 0.045Al 0.023Si 0.988O 3の値を示す.(a)縦波速度.(b)横波速度.振動の変更方向が伝播面と垂直なものは点線あるいは一点鎖線で示す.3.2 CaIrO 3単結晶の弾性異方性とD”層の地震波構造12)下部マントル最下部に存在する厚さ数百kmのD”層は,横波地震波速度が偏向異方性を示し,その様相が局地的に変化していることが知られている. 13)例えば,環太平洋の北西部地域では水平方向に偏向した横波速度(V SH)が垂直方向に偏向したもの(V SV)よりも速く,アフリカ大陸南部ではV SVのほうが速い.大西洋では両者はほぼ等しく,太平洋中南部では,V SH>V SV,V SH<7.06.86.66.46.26.05.843