ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No1

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概要

日本結晶学会誌Vol60No1

日本結晶学会誌60,40-47(2018)特集鉱物結晶学で解き明かす地球惑星ダイナミズム2.地球惑星内部における鉱物の構造と物性X線非弾性散乱法による単結晶のフォノン物性測定と地球内部科学兵庫県立大学大学院物質理学研究科福井宏之Hiroshi FUKUI: Phonon Properties by Inelastic X-ray Scattering Revealing the Structureof the Earth’s InteriorInelastic X-ray scattering is a powerful tool to measure phonon properties of materials, evenunder high pressure conditions. This technique has been applied to determining single crystalelasticity. In this paper, we will introduce recent studies to determine elastic stiffness constants ofsome Earth’s lower mantle materials and gold as a pressure marker. Current and future challenges arediscussed.1.フォノン物性と地球内部物質科学1.1地震波速度観測と弾性波速度測定われわれが直接測定できる地球内部の物性値で最も精度良く決められているものに,地震波速度がある.世界各地には数多くの地震計が設置されており,日々発生する地震を記録している.これらのデータに基づき,地球内部は層状構造をしていることが明らかとなった.また,地震波速度(縦波・横波速度),密度,圧力が,深さの関数としてよく決められている(例えば,PREM(PreliminaryReference Earth Model)1)など).一方で,地球内部構造を物質科学的に理解するということは,地球惑星化学的な制約条件の下で,観測される地震波構造を満たす物質が何であるのかを理解することである.すなわち,地球内部条件下での地球内部候補物質の弾性波伝搬速度を測定し,それを観測されている地震波伝搬速度と比較することにより,地球内部の温度構造および化学構造が決定される.高温高圧下における地球内部候補物質の弾性波速度測定は,地球内部物質科学および高圧鉱物物性学において非常に重要な実験である.日々蓄積される地震波データにより,地震学的地球内部構造の理解は精密になっている.トモグラフィの手法により三次元的な地震波速度構造も求められ,同じ深さであっても地域的に異なる速度を示すことがわかっている.また,横波の偏向異方性や,地震波の伝搬方向に依存した速度構造なども検出されており,これは地球内部を構成する物質の異方性と関係していると考えられる.1.2圧力マーカーの単結晶弾性定数弾性波速度測定に限らず,地球内部物質科学に関連する実験では,試料が置かれている温度・圧力を決定しなければならない.温度は,熱電対の利用や分光学的測定により決定される.圧力の決定は,特に高温条件での場合,圧力標準物質の体積から求められる.圧力標準物質の状態方程式は,衝撃圧縮実験により求められている.これらは一次圧力スケールと呼ばれる.実際の実験では必ずしも一次スケールが圧力標準物質として用いられていない.実験条件と試料との化学反応性などを考慮した選択された適当な物質について,一次圧力スケールに基づいて決定された二次圧力スケールを用いるのが一般的である.これらの圧力スケールはよく決められているが,問題もある.二次スケールは一次スケールと比較することで決められるため,実験条件により発生する誤差の影響を排除できない.また,関数に基づいて内挿を行っているので,もし当該の圧力範囲で圧縮の挙動に何らかの異常があった場合に問題が生じる.二次スケールの問題点につ2いては文献)を参照していただきたい.衝撃圧縮実験で測定された粒子速度と衝撃波速度から,ランキン・ユゴニオの関係式に基づきユゴニオ圧縮曲線が求まる.この圧縮曲線上の温度と圧力条件は,初期条件を変えることにより,バリエーションを付けることは可能であるが,比較的軟らかい物質に限られる.圧力スケールに用いられるような比較的硬い物質では難しいようだ.よって,ユゴニオ圧縮曲線から熱力学的関係式に基づいて等温圧縮曲線へと変換する必要があるが,その際に近似が必要となる.衝撃圧縮とは異なる手法による一次スケールの構築として,高圧下で測定される弾性波速度に基づく方法がある.これは,物質の体積(密度)は体積弾性率を圧力で積分することにより求められることと,体積弾性率は弾性波速度と密度から計算されることの2点に基づいて,40日本結晶学会誌第60巻第1号(2018)