ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No1

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概要

日本結晶学会誌Vol60No1

マントル関連鉱物の高圧単結晶X線構造解析:ヤーン・テラー効果によるスピネル鉱物の高圧相転移相-固相平衡モデルの計算プログラムMELTSでは,クロムスピネルとウルボスピネル(Fe 2TiO 4)を組み合わせた組成(Mg,Fe 2+)(Fe 3+,A1,Cr)2O 4?(Mg,Fe 2+)2TiO 4がスピネルの化学組成として用いられている.14),15)このように,スピネル鉱物は幅広い固溶体を形成することができ,さらにヤーン・テラー効果を示す遷移金属イオンを四面体席と八面体席の両方に保持することができる.スピネル構造にヤーン・テラー効果を示す遷移金属が取り込まれたとき,マントルのような高い圧力に晒される地球深部では,金属イオンと配位子間の電子間反発力が大きくなるため,ヤーン・テラー効果が活性化されると予想される.著者らは,強いヤーン・テラー効果を示すCu 2+を磁鉄鉱に添加したキュプロスピネルに対し高圧単結晶X線回折実験を行い,その発現メカニズムを調べた.16)2.実験方法キュプロスピネルは,Fe 2O 3とCuとの混合物から合成した.この混合物を,酸素ガスを流しながら1,000℃で24時間加熱した後,石英管に真空封入し,1,300℃で36時間加熱した.その結果,石英管の側面に最大約300μmのキュプロスピネル単結晶が得られた.結晶面がよく発達した単結晶を顕微鏡下で選び,EPMA分析を行った.定量分析は,JEOL JXA-8530F電子プローブマイクロアナライザーを用いて,加速電圧20 kV,ビーム電流10 nA,およびビーム径10μmで測定した.合成単結晶の平均化学組成(粒子内13点を分析)は,CuOが20.0(3)wt%,FeO totalが79.2(1.1)wt%,合計99.2(1.2)wt%であった.Fe 2+およびFe 3+の含有量は,化学量論的な電荷平衡に基づいて計算した.その結果,4個の酸素原子のときのキュプロスピネルの化学式は,Cu 2+0.599(Fe 2+0.401Fe 3+2.000)Σ2.401O 4であった.EPMA測定後,結晶をさらに35μmの厚さまで慎重に研磨した.単結晶高圧X線回折測定には,ダイヤモンドアンビルセルを用い,キュレットサイズが500μmのダイヤモンドを使用した.スチール(SUS304)製ガスケットに直径約300μmのガスケットホールを開け,メタノール:エタ17ノール:水が16:3:1の混合液)を圧力媒体に使って,18)単結晶(約80×80×35μm)をセットした.圧力測定のために,ルビーチップを試料チャンバー内に添加した.高圧単結晶X線回折測定は,高エネルギー加速器研究機構(KEK)の放射光施設(Photon Factory)のBL-10Aに設置された高分解能の垂直型四軸回折計を用いた.合計7点の圧力点(P=0.0,1.8,2.7,3.8,4.6,5.9,6.8 GPa)において格子定数を測定した.本研究では,6.8 GPaでの測定で,回折点がスプリットし解析可能な強度データを得ることができなくなったため,6.8 GPaで実験を中止した.結晶構造精密化のための回折強度データ測定は,日本結晶学会誌第60巻第1号(2018)0.0,1.8,2.7,および4.6 GPaにおいて行った.結晶構造は,SHELXL-97プログラム19)を用いて,Fo>4.0σ(Fo)の反射強度データを精密化に使用した.四面体および八面体席の席占有率は,電子マイクロプローブ分析の結果に基づいて精密化した.FeとCuの席占有率は,四面体席はFeが90(1)%,Cuが10(1)%,八面体席はFeが75(1)%,Cuが25(1)%となり,キュプロスピネルの化学組成は,(Fe T 0.90Cu 0.10)Σ1.00M(Fe 1.50Cu 0.50)Σ2.00O 4となった.EPMAの結果から,少量のFe 2+がキュプロスピネルに含まれていることが推察された.Fe 2+とFe 3+では,Fe 2+のほうがイオン半径が大きく,Fe 2+は八面体配位のほうが高い結晶場安定化エネルギーももつことから,本研究ではFe 2+が八面体席への選択性が優位であると仮定し,20)キュプロスピネルの化学組成を,(Fe T 3+0.90Cu 2+0.10)Σ1.00M(Fe 3+1.10Fe 2+0.40Cu 2+0.50)Σ2.00O 4と決定した.電子軌道計算は,密度汎関数法(DFT/B3LYP/6-311+G(d))によって実施した.21)構造モデルは,4.6 GPaで単結晶X線回折測定によって実験的に決定された原子座標を使用した.四面体席はFe 3+によって占有されていると仮定し,八面体席はFe 3+とCu 2+の両方によって占められていると仮定した.電子軌道計算は,Fe 3+O 4四面体2つ,Fe 3+O 6八面体2つ,Cu 2+O 6八面体2つを含む構造モデルに対して実施した.無限の結晶構造を仮定するために,すべての末端位置の酸素原子に水素を正電荷として付加した.3.結果格子定数と単位格子体積の圧力変化を図1に示す.立方晶系F格子と正方晶系I格子との間の関係を図2に示す.立方晶系の単位格子と比較しやすくするために,正方晶系の格子定数aを2倍に,正方晶系の単位格子体積を2倍にしている.圧力-体積曲線は,4.6 GPaにおいてわずかな不連続性を示した(図1).4.6GPaでの立方晶系の格子定数は,a=8.325(5)Aであった.ここで立方晶系F格子を正方晶系I格子に変換し格子定数を再計算した結果,a=5.882(1)A(a軸を2倍した値は8.318A),c=8.337(1)Aとなり,正方晶系としての有意な差が認められた.一方,3.8GPaでの立方晶系の格子定数は,a=8.337(4)Aであったが,正方晶系に変換後の格子定数は,a=5.895(1)A(a軸を2倍した値は8.337A),およびc=8.340(1)Aとなった.この正方晶系の格子定数aおよびcの値は,立方晶系で計算した場合の格子定数a=8.337(4)Aと標準偏差内で等しく有意な差は見られない.したがって,3.8 GPaでは立方晶系のスピネル構造を維持しており,3.8 GPaから4.6 GPaの間に立方晶系から正方晶系に相転移したと結論付けた.0 GPaから3.8 GPaまでの圧力-体積曲線から,EOSFIT 5.2プログラム22)を使用し,Birch-Murnaghan状態方程式にフィッティング33