ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No1

ページ
36/76

このページは 日本結晶学会誌Vol60No1 の電子ブックに掲載されている36ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol60No1

中塚晃彦が,AO 12多面体が大きく歪んでいるためM Aに対しては有効ではなく,代わりに次の近似が用いられる.17)M A=(8R A8 /B 0)exp[(R 0-R A8)/B 0]+(4R A4 /B 0)exp[(R 0-R A4)/B 0](4)ここで,R A8とR A4はそれぞれ8つの短いA?O結合の平均距離と4つの長いA…Oの平均距離である.Angel etal. 18)によれば,BO 6八面体がAO 12多面体より固いとき(M A /M B<1のとき),圧力の増加に伴って八面体tiltは増大する.このとき,八面体tiltに起因した相転移が起こるなら,圧力の増加に伴って低圧高温で安定な高対称相から高圧低温で安定な低対称相へ相転移する.すなわち,圧力の増加に伴い相転移温度T cは増加し,その相境界は図8[001]p方向に投影した298 Kにおける変位楕円体.11)(Displacement ellipsoids at 298 K projected along[001]p.)原子は80%確率レベルで描かれている.等価な原子に対する対称コードは表1のとおりである.合している隣接Geとの強い相互作用に起因しているであろう.ここで,結合の剛性をより精査するために,異方性OPP係数q hklを見積もった.[001]p方向に近いGe?O1結合方向におけるGeとO1のOPP係数は,それぞれq 001(Ge)=9.90(10)eVA-2およびq 001(O1)=10.3(2)eVA-2で近似され,両者は同程度の値をとる.[110]p方向に近いGe?O2結合方向におけるO2のOPP係数はq110(O2)=12.5(3)eVA-2で近似されうる.これらq hkl値は,熱膨張の結果(表1)からも期待されるように,Ge?O2結合がGe?O1結合よりも強固であることを示している.3.下部マントル条件下でブリッジマナイトの対称性変化は起こりうるか?―アナログ物質からの推定以上の結果から,CaGeO 3ペロブスカイトにおけるGeO 6八面体はかなり強固であることがわかる.そのようなペロブスカイト中の配位多面体の剛性に関する情報は地球科学的に非常に重要である.なぜなら,ABO 3ペロブスカイトにおけるAO 12およびBO 6多面体の相対的な圧縮率は高圧高温下での相転移と密接に関係しているからである.17),18)両多面体の圧縮率比(βB/βA)はβB/βA=M A /M Bによって与えられ,Mi(i=A,B)は通常次のように定義される.17)M i=(R i N i/B 0)exp[(R 0-Ri)/B 0](3)ここで,下付きの“A”,“B”はそれぞれAO 12,BO 6多面体に対応しており,NiとRiはそれぞれ常圧常温下での陽イオンの配位数と平均結合距離であり,R0とB0はbondvalenceパラメータである.大部分の直方晶Pbnmペロブスカイトにおいて,式(3)はM Bに対して良い近似である正のクラペイロン勾配をもつ(dP/dT c>0).逆に,BO 6八面体がAO 12多面体より柔らかいとき(M A /M B>1のとき),圧力の増加に伴って,八面体tiltの減少の結果として,低圧低温で安定な低対称相から高圧高温で安定な高対称相へ相転移する.すなわち,その相境界は負のクラペイロン勾配をもつ(dP/dT c<0).ここで,MgSiO 3ブリッジマナイト19)とそのアナログ物質CaGeO 3,11)10CaTiO)3について考える.これら3つの直方晶Pbnmペロブスカイト化合物の常圧常温下におけるM A /M B比はそれぞれ0.67,0.66,0.56である.したがって,もしこれらが高圧高温下で異なる対称性をもつペロブスカイト相へ相転移するなら,それらの相境界は正のクラペイロン勾配をもつことになる.この結果をもとに,下部マントルにおけるMgSiO 3ブリッジマナイトの相転移挙動について以下で考えてみたい.MgSiO 3ブリッジマナイトは,125 GPa・2,500 KでD”地震波不連続と関係したポストペロブスカイト構造への相転移を生じる.2)3),4いくつかの高圧研究)は,直方晶Pbnmペロブスカイト相とポストペロブスカイト相との間に異なった対称性をもつペロブスカイト相が介在する可能性を示唆した.とくに,7.3 GPaの一定圧力のもと1,253 KまでのX線回折実験から,そのような相転移はこの圧力のもと600 K付近で生じると報告された.3)しか19し,既報)の構造パラメータを用いて計算したMgSiO 3ブリッジマナイトの常圧常温下でのtilt角はφx-=11.7°,φz+=11.6°であり,図5に示すように,CaGeO 3(φx-=7.2°,φz+=7.7°)やCaTiO 3(φx-=8.3°,φz+=8.8°)のtilt角よりもかなり大きい.上述したように,M A /M B<1のときtilt角が大きいほど相転移温度T cは高くなるので,相転移が存在するならば,MgSiO 3ブリッジマナイトはほかの2つのアナログ物質よりもかなり高いT cをもつはずである.その相境界は正のクラペイロン勾配をもつと予測されるので,圧力の増大はTcをさらに増大させるであろう.11CaGeO)10 3やCaTiO)3のアナログ物質で実証されたように,MgSiO 3ブリッジマナイトにおいても直方晶Cmcm30日本結晶学会誌第60巻第1号(2018)