ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No1

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概要

日本結晶学会誌Vol60No1

中塚晃彦2.6 GeO 6八面体tiltの温度依存性八面体tiltは3つのtilt角φi+,φi-,φi0(i=x,y,z)によって表される.10)φi+,φi-,φi0は,軸i(i=x,y,z)に関してそれぞれtiltが同位相の場合,反位相の場合,そしてtiltがない場合を示している.ここで,x-,y-,z-軸はそれぞれ[100]0,[010]0,[001]0を示しており,下付きの“0”は擬立方構造を示している.直方晶Pbnmペロブスカイトのtiltシステムは,[100]0および[010]0軸に関する同一の反位相tilt角(φx-=φy-)と[001]0軸に関する同位相tilt--角(φz+)によって記述され,φxφyφz+(φx-=φy-)と表される.tilt角は,φ=tan-1(2d’)から計算される.ここで,d’は八面体のtiltモードの振幅であるが,tilt角の計算に関13する詳細は文献)を参照いただきたい.図5にtilt角φx-(=φy-)およびφz+の温度依存性を示す.この図には,Ca原子[原子座標(x,y,0.25)]の位置パラメータx,yの温度依存性も示している.比較のために,CaGeO 3ペロブスカイトと同じA2+B 4+O 3型のPbnm構造をもつCaTiO 3ペロブスカイトのデータについてもこの図に示している.温度上昇に伴い,CaGeO 3ペロブスカイトのφx-とφz+は減少し,Ca原子は立方晶Pm3m構造のCa位置に相当する理想位置(0,0,0.25)に近づいていく.これらの傾向は,CaTiO 3ペロブスカイトの場合と一致している.結合に関与していない4つのCa…O距離で見られる負の熱膨張は,そのような構造歪みが減少した結果であり,12個の等価なCa?O結合距離をもち八面体tiltのな0 0い(φxφyφz0)立方晶Pm3m構造へ近づいていくことの表れである.CaTiO 3ペロブスカイトにおいても,直方晶Pbnm相と立方晶Pm3m相の間の高温中間相として直方晶Cmcm相の存在が過去に示唆されてきた.14)しかし近年,高温粉末10中性子回折による構造研究)は,本研究のCaGeO 3ペロブスカイトと同様,CaTiO 3ペロブスカイトにおいてCmcm相が存在しないことを実証し,代わりに,1,512 Kで直方晶Pbnm→正方晶I4/mcm,1,635 Kで正方晶I4/mcm→立方晶Pm3mの相転移が生じることを報告した.残念ながら,本研究において常圧常温下で回収された準安定なCaGeO 3ペロブスカイト試料は,900 Kを超える温度で非晶質化した.しかし,上述したように,結晶構造の温度依存性がCaTiO 3ペロブスカイトの場合と類似していることから,CaGeO 3ペロブスカイトは高圧下でCaTiO 3ペロブスカイトと同様の高温相転移を生じているかもしれない.2.7 MSDの温度依存性とDebye温度の決定回折法で決定した原子の平均二乗変位(MSD)は,熱振動に起因する動的変位と配置の乱れに起因する静的変位の両方の寄与が含まれ,Debyeモデルに基づけば,次式で表される.15)2 2s dMSD =〈u〉+〈u〉=?2ΘD2 3?T T xΘD〈u〉+T +s2 ?∫0dx ?(1)mkBΘΘD De x ?1 4T?ここで,〈u 2〉sは静的変位成分,〈u 2〉dは動的変位成分,mは原子質量,kBはBoltzmann定数,?は換算Planck定数,ΘDはDebye温度,Tは絶対温度である.一般には,静的変位成分はあまり温度に依存しない.その場合には,〈u 2〉sを定数と見なせる.そこで,低温から高温にわたる広い温度範囲で求めた多数のMSDデータに対して式(1)を最小二乗フィット(Debyeフィット)すれば,ΘDと〈u 2〉sを決定できる.各原子における等価温度因子U eqとMSD hklの温度依存性をそれぞれ図6と図7に示す.ここで,U eqはあら??図5(a)八面体のtilt角φx-,φz+と(b)Caの位置パラメータの温度依存性.11)(Temperature dependence of(a)-the octahedral tilt anglesφx andφz+, and(b)the Capositional parameters.)ゆる方向に対して平均化したMSDに相当し,MSD hklは[hkl]p方向へのMSDであり,下付きの“p”は直方晶Pbnm構造を示している.U eqのDebyeフィットから,あらゆる方向に対して平均化したデバイ温度ΘDeqと静的変位成分〈u 2 eq〉sが求まり,一方,MSD hklのDebyeフィットから,[hkl]p方向のデバイ温度ΘDhklと静的変位成分〈u 2 hkl〉sが求まる.各原子のU eqおよびMSD hklの温度依存性とも,式(1)のDebyeモデルによく従っていることがわかる.決定した各原子の〈u 2 eq〉s値はほぼ3σの範囲内で0と見なすことができ,最終的に〈u 2 eq〉s=0あるいは〈u 2 hkl〉s28日本結晶学会誌第60巻第1号(2018)