ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No1

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概要

日本結晶学会誌Vol60No1

中塚晃彦図2単位格子の(a)軸長a p,bp,cp,(b)軸間角度αp,βp,γpおよび(c)体積V pの温度依存性.11)(Temperature dependenceof(a)the unit-cell edge lengths a p, b p, c p,(b)the angles between the edgesαp,βp,γp and(c)the unit-cell volume V p.)どんな熱容量異常も検出されなかった.以上のように,Cmcm高温相の存在はかなり疑わしい.加えて,Pbnm相における結晶構造の温度依存性でさえ十分には調べられていない.これらを明らかにすることは,下部マントルにおけるMgSiO 3ブリッジマナイトの結晶化学的理解にとって重要である.われわれは,これらの問題を解決すべく,以下に示すように温度を変数とした単結晶X線構造解析を行った.2.3実験と解析12 GPa・1,253 Kで合成した0.15×0.14×0.14 mm 3のサイズをもつCaGeO 3ペロブスカイト単結晶を石英キャピラリーに挿入して回折強度測定の試料とした.冷却・加熱に窒素吹付け型低温・高温装置を用い,98~898 Kの33温度点において格子定数を測定した.さらに,この温度範囲内の18温度点において,高強度Mo Kα線(60 kV,250 mA)を用いて4軸型X線回折計により2°?2θ? 100°の範囲内の反射の強度を測定した.測定の際,試料位置の温度変動を±0.2 K以内に保った.等価反射を平均し,Lp効果,吸収効果,消衰効果に対する強度補正を施した.構造精密化の際に,多重散乱の影響が疑われる反射と(sinθ)/λ値の小さな低角度反射を削除した.とくに後者は,二次消衰効果を低減し,解析に用いる原子散乱因子を選択する際にその原子電荷への依存性をできるだけ避けるための措置である.最終的に,各温度に対してF o>3σ(Fo)の精度をもつ653~844個の独立反射を構造精密化に用い,信頼度因子はR=0.0142~0.0229,wR=0.0117~0.0184に達した.さらに,試料の熱的安定性を調べるために,最高1,048 Kまで単結晶X線回折実験を行った.詳細な実験方法と解析結果については原著論11文)を参照いただきたい.2.4 Cmcm構造への高温相転移は存在するか?まずは,Pbnm構造(直方晶),Cmcm構造(直方晶),擬立方構造における単位格子の関係を見てみよう.図1に図3 2×2×2格子と2×2×2格子の関係.11)(Relationshipbetween 2×2×2 and 2×2×2 lattices.)示すように,3者の軸長の関係は,a p? 2 a c/2? 2 a 0,b p ? 2 b c/2? 2 a 0,c p ? c c ?2a 0と表され,ここで,下付きの“p”,“c”,“0”はそれぞれPbnm構造,Cmcm構造,擬立方構造を示している.この関係から,Pbnm構造とCmcm構造の単位格子を,擬立方構造の単位格子を基準にして,それぞれ2×2×2格子および2×2×2格子と呼ぶことにする.2×2×2格子を仮定して測定した格子定数(ap,bp,cp,αp,βp,γp)と単位格子体積(Vp)の温度依存性を図2に示す.ap,bp,cp,V pは温度上昇に伴って単調に増加する.約680 Kまでa pはap<bpの関係を保ちながらb pに近づき,両者が一致した後,この温度以上でa pはb pを追い越す(図2a).αp,βp,γp角は温度に依存せず,90°からのずれを示さない(図2b).この状況は約900 Kまで続くが,この温度以上で回折ピークがブロード化し始め,980 Kまでには完全に非晶質化することがわかった.この非晶質化温度は,既報のラマン散9乱研究)で報告された温度(923 K)とよく一致している.Cmcm構造は,2×2×2格子が直方晶系であることを必要とする.すなわち,Pbnm→Cmcmの相転移が起こるならば,2×2×2格子を仮定して測定した格子定数は相転移点以上で「ap=bpかつγp≠90°」の条件を満足しなければならない(図3).さらに,対称性による制約から,この相転移は一次転移でなければならない.8),9)しか26日本結晶学会誌第60巻第1号(2018)