ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No1

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概要

日本結晶学会誌Vol60No1

温度を変数とした地球内部アナログ物質の構造研究:CaGeO 3高圧ペロブスカイト相についてガーネット型→直方晶ペロブスカイト型というMgSiO 3の場合と類似した相転移を示すことから,MgSiO 3に対する最良の低圧アナログ物質であると言える.高圧・高温状態にある地球内部のダイナミックスの予測には,圧力と同様,温度を変数とした地球内部アナログ物質の構造研究が重要な役割を担っている.とくに,温度を変数とした原子の熱振動挙動の情報は,Debye温度やポテンシャル係数などの結晶の固有値を与え,それゆえ原子間相互作用の大きさを知る手掛かりとなり,構造安定性に関する重要な知見を与える.また,原子の熱振動は,地球内部のダイナミックスを議論する上で重要な高温構造相転移や熱伝導など温度を変数とした鉱物結晶のマクロな現象と深く関係しており,そのメカニズムを原子レベルでのミクロな視点から解明するためにも重要である.本稿では,これまでわれわれが行ってきた地球内部アナログ物質に関する研究の中から,温度を変数としたペロブスカイト型CaGeO 3の構造研究11)を紹介する.さらに,その研究成果から読み取れる実際の下部マントル中でのブリッジマナイトの構造特性について議論する.2.温度を変数としたペロブスカイト型CaGeO 3の単結晶X線構造解析2.1ペロブスカイト型構造とその特徴ペロブスカイト型ABO 3の結晶構造は,BO 6八面体が頂点共有によって連結した三次元的フレームワークの隙間をA原子が埋め,AO 12多面体を形成していると見なせる.その結晶構造は理想的には立方晶系で空間群Pm3mに属し,A原子は1a席(0,0,0),B原子は1b席(0.5,0.5,0.5),O原子は3c席(0,0.5,0.5)に位置している.この場合,BO 6八面体は6個の等価なB?O結合距離をもつ正八面体であり,AO 12多面体は12個の等価なA?O結合距離をもつ立方八面体である.ところが,ペロブスカイト型構造は,物理的・化学的条件の変化に伴うBO 6八面体の歪みやtilt(傾きや回転)の変化によって,さまざまな対称性に変化しうる.本研究で取り上げたCaGeO 3ペロブスカイトもその一例である.常圧常温下で急冷回収された試料で比較すると,CaGeO 3ペロブスカイトは,MgSiO 3ブリッジマナイトと同一,すなわち,空間群Pbnm(直方晶)の対称性をもつ.12)この構造では,A原子に対応するCaは4c席(x,y,0.25),B原子に対応するGeは4b席(0,0.5,0)に位置している.一方,O原子は非等価な2種類(O1,O2)に分かれ,O1は4c席(x,y,0.25),O2は8d席(x,y,z)に位置している(図1).理想的な立方晶Pm3m構造との関係については後述するが,その構造は,GeO 6八面体の歪みやtiltのため,Pm3m構造から大きく歪んでいる.日本結晶学会誌第60巻第1号(2018)図1 CaGeO 3ペロブスカイトの結晶構造.11)(Crystalstructure of CaGeO 3 perovskite.)(a)三次元結晶構造図,(b)[010]p投影図,(c)[001]p投影図.等価な原子に対する対称コードは表1のとおりである.2.2高温相転移に関するこれまでの研究Liu et al. 8)は,高温粉末X線回折から,CaGeO 3ペロブスカイトは常圧下520 K付近で空間群Cmcm(直方晶)の対称性をもつ高温相へ相転移すると報告した.これは,520 K以上で見られる以下の観察に基づかれている.(1)Pbnm構造では禁制されるが,Cmcm構造では許容される反射が出現する.(2)a軸長とb軸長が収束する.しかし,観察(1)に関して,彼らが報告した粉末X線回折パターン8)を見る限り,観測できたとされるPbnm構造における禁制反射はバックグラウンドと区別がつかないほど非常に弱く,実際にはそれらの反射が観測されたと結論付けるには無理があるように思える.観察(2)に関して,リートベルト解析によって格子定数が決定されているが,その際O原子の位置パラメータが室温での既12報値)で固定されていることから,得られた格子定数の信頼性は低いように思える.さらに,彼ら自身が行った8熱測定)においても,相転移が起こるとされた520 Kで25