ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No1

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概要

日本結晶学会誌Vol60No1

日本結晶学会誌60,24-31(2018)特集鉱物結晶学で解き明かす地球惑星ダイナミズム2.地球惑星内部における鉱物の構造と物性温度を変数とした地球内部アナログ物質の構造研究:CaGeO 3高圧ペロブスカイト相について山口大学大学院創成科学研究科中塚晃彦Akihiko NAKATSUKA: Structural Study on Analogs of the Earth’s Interior Materials asa Function of Temperature ? on CaGeO 3 High-Pressure Perovskite PhaseStructural studies on analogs of the Earth’s interior materials can give important insights intothe understanding for material construction, physical properties and dynamics in the Earth’s interior.In particular, CaGeO 3 high-pressure perovskite phase is an excellent low-pressure analog of MgSiO 3bridgmanite, the most dominant constituent in the Earth’s lower mantle, with the orthorhombic Pbnmperovskite-type structure. I here review our recent structural research of CaGeO 3 perovskite as afunction of temperature. The research leads to the earth-scientific implication as to the phase transitionof MgSiO 3 bridgmanite in the Earth’s lower mantle.1.はじめに1.1地球の内部構造とブリッジマナイトの重要性地球は,表層から中心に向かって順に地殻(岩石相)・マントル(岩石相)・核(金属相)という3つの層に大別される.さらに,マントルは上部マントル・遷移層・下部マントルに分けられ,鉄を主成分とする核は液体の外核と固体の内核に分けられる.このような地球内部の層構造は,地震波速度不連続面に基づいて区分されており,構成物質の相転移や分解などによる相変化と対応している.このうち,マントルは地球の体積の約80%以上を占め,その最上層部は主にカンラン石(Mg,Fe)2SiO 4,輝石(Ca,Mg,Fe)SiO 3,スピネルMgAl 2O 4などMgO-SiO 2-FeO-CaO-Al 2O 3系の鉱物で構成されている.これらの鉱物は,さらに地下深くに進むにつれて相転移や分解を繰返し,最終的には下部マントル上部において,「ブリッジマナイト」という鉱物名で知られるMgSiO 3成分に富む直方晶(斜方晶)ペロブスカイト,CaSiO 3成分に富む立方晶ペロブスカイト,岩塩型構造のフェロペリクレース(Mg,Fe)Oの混合相に変化する.下部マントルは地球の体積の半分以上を占め,ブリッジマナイトはその下部マ1ントル体積の77%以上)を占めると推定されることから,おそらく地球上で最も存在度の高い鉱物相である.上記の鉱物組み合わせは,下部マントル深部まで,地震波速度の大きな不連続が観測されていないため安定であると考えられている.ところが,下部マントル最下部では地震波速度が不連続になるD”層と呼ばれる領域がある.この不連続の原因は長年未解決であったが,近年,ペロブスカイト型構造(直方晶;空間群Pbnm)をもつブリッジマナイトがポストペロブスカイトと呼ばれるCaIrO 3型構造(直方晶;空間群Cmcm)へ相転移するためであることがわかった.2)一方,この相転移が生じる前に,ブリッジマナイトは別の対称性のペロブスカイト相に変化する3),4という報告)もあるが,詳細は明らかではない.1.2アナログ物質としてのペロブスカイト型CaGeO 3上記のように,ブリッジマナイトは地球内部物質として最も重要な鉱物の1つである.下部マントル中でのブリッジマナイトは若干のFeO成分とAl 2O 3成分を含みうるが,第一近似的にはその組成式をMgSiO 3と表すことができる.このため,MgSiO 3組成のブリッジマナイトを5中心に,その結晶構造や物性に関する研究が実験)と理6論計算)の両面から広く行われてきた.しかし,常圧常温下で準安定相として回収されたブリッジマナイトの急冷試料は熱的安定性が低いため,7)その実験的研究は大きく制限されてきた.このように目的とする高圧相に対して直接測定が困難な場合には,より低圧で合成でき,安定性が高く,しかも物理的・化学的に性質が類似したアナログ物質の研究が,目的とする高圧相の構造特性や物性の予測に有効である.同じ構造の高圧相に相転移する化合物群において,一般にイオン半径の大きい陽イオンを含む化合物のほうが低圧で相転移する.MgSiO 3ブリッジマナイトの高温における構造や物性に対する理解の一助とするため8),9に,CaGeO)10 3やCaTiO)3など,より低圧で安定であり,しかも,より高い熱的安定性をもつさまざまなアナログ物質の高温特性が広く調査されてきた.とくにCaGeO 3は,MgSiO 3と同族の元素から成るA 2+B 4+O 3型に属し,しかも圧力上昇に伴って準輝石類のウォラストナイト型→正方晶24日本結晶学会誌第60巻第1号(2018)