ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No1

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概要

日本結晶学会誌Vol60No1

長瀬敏郎モンゴル自治区白雲鄂博産試料,東京都小笠原村弟島鹿の浜産試料である.結晶形態の観察にはFE-SEM(日本電子社製ショットキー電界放出型走査電子顕微鏡JSM-7001F)を用いた.また,試料を研磨薄片とし,光学顕微鏡観察ならびにEPMA分析を行った後に,イオンミル法を用いてTEM(日本電子社JEM-2010)用試料を作製し,光学顕微鏡スケールからナノメートルスケールまでの観察を行った.図2はヘキサライトの形態を呈するルテサイトの断面の偏光顕微鏡写真である.太い白線で囲った部分がヘキサライトの断面であり,r Aならびにr Bは図3cの形態スケッチでのr Aならびにr Bの各面にそれぞれ相当する.ヘキサライトの断面は繊維状組織を呈し,複雑な内部構造をもつことから,単結晶ではない.この定方位に切断した試料の各部分について偏光顕微鏡観察とTEM観察を対応させ解析した.解析の結果,偏光顕微鏡で観察された繊維状組織は,[212]方向に伸長した(101)面に平行な0.1~0.5μmの厚さの板状結晶の断面に相当する.図4に示したように,ルテサイトの中では短冊状の細かい板状結晶が平行連晶し束を形成している.また,ルテサイト中にはこの束の向きが変化している部分があり,束は約27度角度をもって交差している.この交差した束のなかの石英の結晶学的な関係は,それぞれのc軸のなす角度が76度で,a軸は平行である.このような関係で接合している2つの結晶の関係は,Reichenstein-Grieserntal双晶則である.25)これは珍しい双晶則である.このような解析によって得られた結果を基に,六角板状のヘキサライトの形態を結晶学的に解釈すると図5に示した関係で石英の結晶粒子が接合している.図3のヘキサライトの形態は,この双晶形態を右から見たものと一致する.次にルテサイト中でモガン石はどのように分布しているのか調べた.この板状結晶のなかに100~300 nmの大きさの不規則なドメインとしてモガン石は分布している(図6a).モガン石と石英は次のような結晶学的関係をもつ.<110>* moganite//<110>* quartzおよび図3Arz-Bord産ルテサイト試料中のヘキサライトの形態写真とそのスケッチ図.(Photographs andschematic illustration of hexalite in lutecite samplefrom the Arz-Bord Range, in northwestern Gobi,Mongolia.)(a)ヘキサライトの板状晶の集合体,(b)六方晶形態を呈するヘキサライト.六方晶の幅は約2 mm,(c)ヘキサライトのスケッチ図.<202>* moganite//<101>* quartzモガン石中にも多数の積層欠陥が認められ,モガン石の電子線回折像には[101]*方向にストリークが認められる(図6b).ルテサイトの短冊状の形態やReichenstein-Grieserntal双晶とモガン石の分布には明らかな関係は認められない.このことからヘキサライトはモガン石の単結晶ではなく石英のReichenstein-Grieserntal双晶則で接合した特異な形態であることが明らかになった.偏光顕図4東京都小笠原村弟島鹿の浜産ルテサイトの電子顕微鏡写真.(ElectronmicroscopyimagesoffibrouscrystalinShikano-hama lutecite sample.)(a)SEM像,(b)TEM像,(c)制限視野電子線回折像.20日本結晶学会誌第60巻第1号(2018)