ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No1

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概要

日本結晶学会誌Vol60No1

鉱物の微細組織観察と形成過程の結晶学:シリカ鉱物を中心にしてなわち組織の揺らぎが大きいためである.TEMは鉱物解剖の重要なツールである.しかしながら,複雑な組織をもつ試料でのTEM観察では必ず観察結果がその試料において普遍なものかという問題が生じる.この普遍性を裏付けるために,マクロ組織とミクロ組織との照合は不可欠である.そのためには,薄片を作製し,偏光顕微鏡観察を行い,走査型電子顕微鏡(SEM)による後方散乱電子線回折(EBSD)法やカソードルミネッセンス(CL)像観察,反射電子(BSE)像観察などの解析の後に,TEM観察を行う.光学顕微鏡のミリメートルスケールから透過型電子顕微鏡のナノメートルスケールまで連続した組織観察を行う際,近年まで難しい領域があった.これが1~0.1μmのスケールをもつ組織であり,通常のSEMで観察するには小さすぎ,TEMでは少し大きいという領域である.これを改善してくれたのが電界放射型電子銃を備えた走査型電子顕微鏡(FE-SEM)である.従来のSEMに比べて分解能が格段に良くなり,このサイズの領域がカバーされた.また,結晶学的な解析においてもFE-SEMを用いたEBSD解析はマクロとミクロを結びつける重要な役割を担い,組織解読に重要な結晶方位分布の情報を与えてくれる.高輝度の電子線とアプリケーションソフトの発展によりEBSD解析が飛躍的に発達し,解析時間を短縮し,サブミクロンサイズの鉱物の解析が容易になった.そして,結晶方位データの解析プログラムも充実し,粒径や粒界,結晶方位についての定量的解析が簡便にできるようになった.これにより結晶同士がどのような関係で接合しているのか,どの結晶学的方向に伸長しているのか,などを正確にかつ統計的に測定できる.特に等軸晶系の鉱物や不透明鉱物は光学顕微鏡では,結晶の方位情報が得られにくいことから,組織解析にとってEBSD法は革新的な方法である.しかしながら,EBSD法も万能ではない.偽対称性やメロヘドリー関係をもつ結晶に対しては解析が難しく,EBSD法だけですべての組織を結晶学的に解析できない.このような組織の結晶学的な解読にはいまだ光学顕微鏡にも依存しており,EBSD法や光学顕微鏡などさまざまな手法を用いた情報を重ね合わせて解析する必要がある.5.電子顕微鏡を用いた組織の解析例:ルテサイトの組織解析透過型電子顕微鏡を用いた石英集合組織玉髄の解析例を紹介する.玉髄は鉱物の集合体なので鉱物名ではなく岩石名である.玉髄以外にも石英細粒結晶集合体にはコーツイン(クォーツイン,quartzine)とルテサイト(lutecite)とよばれるものがある.玉髄に似たものに瑪瑙があり,この英訳に‘agate’が用いられる.瑪瑙は縞状組織を呈するものに用いられ,工芸品や装飾品によく日本結晶学会誌第60巻第1号(2018)図2モンゴル・Arz-Bord産ヘキサライト形態を示すルテサイトの偏光顕微鏡写真.(Cross-polarizedoptical photomicrograph of lutecite with hexalite habitfrom the Arz-Bord sample.)太い白線で囲った部分がヘキサライトの断面であり,この薄片は板状結晶の底面に垂直に切断し作成した.r Aならびにr Bは図3cの結晶図のr AならびにrBにそれぞれ相当する.また,図中には,繊維の方向が異なるA部分とB部分のそれぞれの結晶方位を示した.これらの結晶方位はTEM観察により決定した.使用される縞瑪瑙を意味する.これに対し,玉髄,コーツイン,ルテサイトは珪質堆積物の組織分類に使われる用語である.玉髄,コーツイン,ルテサイトは光学顕微鏡下では繊維状の組織を呈し類似しており,石英繊維の伸長方向の違いによって分類される.玉髄ではc軸に垂直な[110]方向,コーツインではc軸に平行,ルテサイトではc軸から傾いた方向に繊維が伸長している.20)図2には,ルテサイトの薄片の偏光顕微鏡写真を示した.この繊維の消光位は,図中に示したc軸方向(例えばC AならびにCB)とその直角方向である.ルテサイトの発見は古く19世紀後半まで遡る.21)しかし,ルテサイトの産出は玉髄やコーツインに比べて少ない.そのため,ルテサイトの研究は進んでいなかった.モガン石が新鉱物としてIMAに認定されると,モガン石とルテサイトは同じ鉱物であり,そのプライオリティーは,ルテサイトの研究にあるという指摘がなされた.22)そして,ルテサイトが自由な空間で成長すると図3に示したような六角形の形態を呈する.Godovikov and Ripinen(1994)23)はこの形態をヘキサライト(hexalite)と名付け,ヘキサライトこそがモガン石の自形結晶ではないかと考えた.このような問題点を踏まえ,著者らは,このようなルテサイトやヘキサライトの内部組織を観察し,その特異な形態はモガン石の構造を反映する形なのか組織解析に取り組んだ.そして,これらの組織がどのような形成過程によりできたか研究した.24)観察に用いた試料はモンゴルArz-Bord産ならびに中華人民共和国内19