ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No1

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概要

日本結晶学会誌Vol60No1

日本結晶学会誌60,17-23(2018)特集鉱物結晶学で解き明かす地球惑星ダイナミズム1.鉱物の微細組織と結晶学鉱物の微細組織観察と形成過程の結晶学:シリカ鉱物を中心にして東北大学学術資源研究公開センター長瀬敏郎Toshiro NAGASE: Crystallographic Analyses for Textures and Growth Processes ofMineralsVarious mineral species are produced by geological process. Dynamical processes in the Earthexpand varieties of mineral species, and their textures and crystal structures. Mineral textures includehistorical information about the growth, transition and deformation of the minerals in the Erath.Hence, analyses of mineral textures are conducted macro- to nano-scale using optical and electronmicroscopies. I present our study about lutecite, which is a kind of aggregate of fine quartz andmoganite crystals, and discuss metastable precipitation processes of minerals in geological conditions.1.はじめに国際鉱物学連合(IMA)の新鉱物ならび鉱物名・分類に関する委員会(CNMNC)の報告によると2017年9月までに見つかった鉱物は5,291種類にのぼる.毎年,新しい鉱物が途切れることなく発見され,鉱物種の総数は着実に増加している.私は現在,大学博物館に所属し,鉱物の多様性について研究している.研究対象である鉱物の多様性とは,鉱物種,鉱物の結晶構造,鉱物組織,そして鉱物の形などについてである.これらの鉱物の多様性を通じて,鉱物形成のカイネティクスが地質現象を考える上でどのような役割を果たしているのかを明らかにするのが私の研究の目的の1つである.2.地表付近の鉱物の特異性2.1準安定相われわれの住む地球表層部での鉱物の形成プロセスは複雑で,室内の合成実験による予想と異なることが多い.これは,常圧付近,常温から300℃付近までの環境で形成する鉱物に顕著に現れる.これまでの長年の研究により幅広い化学組成について室内実験が行われ,地表付近での安定な鉱物について明らかにされてきた.地球表層部,すなわち常温常圧付近での安定な鉱物組み合わせはほぼ決定されているといって過言ではないであろう.しかし,これはすべての鉱物組み合わせが平衡であるという条件のもとである.土壌中の鉱物を見ると,岩石が風化し運ばれてきた石英や磁鉄鉱などの鉱物のほかに,ハロイサイト(halloysite)などの粘土鉱物や針鉄鉱(goethite)などの水酸化鉄鉱物や蛋白石(opal)などが自生鉱物として多く日本結晶学会誌第60巻第1号(2018)含まれている.これら自生鉱物は相図上には現れないものが多く,熱力学的に最も安定な相ではないので準安定相とよばれる.準安定相は,最も小さな自由エネルギーをもつ安定相ではないという意味であり,必ずしも不安定ではない.準安定相は地球表層部で普遍的に観察される.珪質堆積物の構成鉱物の1つであるオパールCTは方珪石(cristobalite)と鱗珪石(tridymite)の混合層鉱物と考えられている.1)-3)鱗珪石と方珪石は石英の高温相であり,常圧での安定領域は,鱗珪石ではおよそ867~1,470℃の領域で,方珪石ではおよそ1,470~1,713℃の領域である.珪質堆積物に含まれる方珪石と鱗珪石は,熱力学的な安定領域外で形成された準安定相である.また,玉髄(chalcedony)などの珪質岩に普遍的に含まれるモガン石(moganite)4)-7)も準安定相であり,モガン石はいかなる温度・圧力条件下においても安定領域をもたない.鉱物の多様性を考えるとき,準安定相を無視することはできない.地球表層付近では石英が最も安定な相であるが,この安定領域内で形成される鉱物相として,前述の3つの鉱物のほかに,黒珪石(melanophlogite),8),9)千葉石(chibaite)10),房総石(bosoite),蛋白石などが報告されている.黒珪石や千葉石,房総石はSiO 2のほかにメタンやエタン,窒素を含み,石英とは違う化学組成をもつが,これらの安定相も石英であると考えられており,シリカのファミリーに分類される.そして,これまで報告されたシリカのファミリーに属する鉱物のうち,モガン石や蛋白石,黒珪石,千葉石,房総石,レカテリエ石(lechatelierite),ザイフェルト石(seifertite)など半数以上が相図上に安定領域をもたず,準安定相の存在が鉱物種の多様性を広げている.ザイフェルト石以外の準安定17