ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No1

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概要

日本結晶学会誌Vol60No1

大藤弘明図6 Popigai産インパクトダイヤモンドの微細組織.(Microtexture of impact diamonds from the Popigaicrater.)32)全体として等粒状の組織を示すが,ダイヤモンドの111回折点および六方晶ダイヤの100回折点が同方向に強い配向を示す.るのに対し,Popigai産ダイヤではダイヤモンド粒子は111回折点の強い選択配向を示している(図6A).選択配向の方位は板状試料の法線方向に一致する試料が多く,また,同方向に六方晶ダイヤの100回折点も分布していることを踏まえても,選択配向は原料物質のグラファイトの層構造に由来する可能性が高い.しかし,実験室で合成されるNPDの場合,このような選択配向や共軸関係はラメラ状組織部で観察されるものの,等粒状組織部では見られない(図1,2).Popigai産のインパクトダイヤは結晶性の良い天然グラファイトからのマルテンサイト相転移によって生じるため,普通に考えればラメラ状~層状の組織が形成されるはずではないだろうか?このインパクトダイヤにおける不思議な組織化の原因もまた,原料(出発)物質にあるようだ.図7Aは,Popigai産インパクトダイヤの組織化プロセスを示した模式図である.Popigaiダイヤの出発物質は,クレーター周辺に分布する片麻岩中に含まれる単結晶様のグラファイトであると考えられる. 29)これに衝撃圧が加わると,グラファイト内部に多数のキンクや屈曲が生じ,そこを起点に次々と断片化と個々のドメインの回転(モザイク化)が起こる.これが高温下に置かれると,それぞれのドメイン内ではマルテンサイト転移が優勢に進むものの,その境界部分(粒界)では拡散による相転移も多少進行し,全体としては配向性を有する等粒状の組織が形成されると解釈される. 32),33)グラファイトは積層方向に劈開があり,1気圧下では層間で滑りやすいが,高圧まで圧縮されると層間にsp 3共有結合が形成され,きわめて硬くなることが知られている. 34),35)したがってグラファイトが衝撃を受けた場合,層間は滑りにくく,そこでは応力が解放されないため,キンクや屈曲といった塑性変形(モザイク化)が起こるのだろう.実際,出発物質に単結晶グラファイトを用いて高圧合成を行うと,選択配向を示すものの全体として等粒状の組織を示すNPDが得られた(図7B).その微細組織は図7単結晶グラファイトからのナノ多結晶ダイヤモンドの生成.(Nanodiamond formation from single crystalgraphite.)32)A)インパクトダイヤの結晶化・組織化プロセスを示した模式図,B)単結晶グラファイトから15 GPa,2,300℃の条件で合成したNPDの微細組織.上下方向(出発物質のグラファイトの積層方向)に強い選択配向を示すが,全体的に等粒状の組織よりなる.Popigai産のインパクトダイヤの組織(図6)とよく対比される.一方,同じく高い結晶性と配向性を示す高配向熱分解グラファイトを用いた場合,前述の全体として層状組織を有するNPD(図4)が合成される. 23)これには両グラファイト材料の組織・構造上の違いが関係しているようだ.単結晶グラファイトはc軸(積層)方向だけでなくa軸方向にも長距離周期性をもった“一枚板”状の構造をもつ.これに対して,高配向熱分解グラファイトはc軸方向への配向性は高いが,数十nmおきに積層が不連続となる乱層構造を伴う. 23)これは言い換えれば,厚さ数十nmおきに“粒界”が存在しているということになる.したがって,高圧下へ圧縮された場合,この“粒界”部分ではsp 3共有結合が形成されず,むしろすべり面として働き応力を解放するため,グラファイトの層状構造が保持された層状NPD(図4)が形成されると考えられる.4.天然版ナノ多結晶ダイヤモンド発見の意義以上に紹介したように,グラファイト-ダイヤモンド相転移における結晶化プロセスや形成される微細組織は,原材料となるグラファイトの結晶学的特性(結晶子14日本結晶学会誌第60巻第1号(2018)