ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No1

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概要

日本結晶学会誌Vol60No1

グラファイト-ダイヤモンド相転移の結晶化・組織化メカニズムに新たな機能性や付加価値を与えることへ繋がると期待される.3.天然におけるグラファイト-ダイヤモンド相転移自然界においてグラファイト-ダイヤモンド直接相転移が観察されるのは,隕石中か,巨大な隕石の衝突によって生じたクレーター中にほぼ限られるであろう.ダイヤモンドの主要な生成場である地球深部のマントルや超高圧変成岩中では,主にC-H-O流体(CO 2,H 2O,CH 4などの混合流体)やメルトが関与した化学反応の結果としてダイヤモンドが析出すると考えられるためだ. 25)そのような流体やメルトの関与なしにグラファイトからの直接(固相-固相)相転移でダイヤモンドが生じるような地質学的環境を想像するのは難しい.一方,隕石中や巨大隕石クレーターでは,衝撃圧縮によって母岩中に元々含まれていた炭素物質(グラファイト)が瞬間的にダイヤモンドへ相転移した例がよく観察されている.隕石中に含まれるダイヤモンドのほとんどが,ユレイライトというエコンドライトの一種や鉄隕石中より産出する.6),15),26),27)ダイヤモンドは,数十~数百μmほどの黒色不定形を示し,準安定相の六方晶ダイヤモンド(ロンズデーライト)や未変換のグラファイトを伴う.それらの3つの多形の格子間には前述の共軸関係が保持されているため,衝撃圧縮によるマルテンサイト転移によってダイヤモンドが生成されたと考えられてい15る.最近の記載的研究)によると,Goalparaユレイライトに含まれているダイヤモンドの場合,グラファイトと六方晶ダイヤ,立方晶ダイヤはそれぞれ数十~数百nmほどのドメインをなし,モザイク状の組織を形成しているようだ.しかしながら,隕石中に含まれるダイヤモンドの微細組織を詳しく記載した例は少なく,まだ十分に検討されているとは言えない.3.1インパクトダイヤモンドカナダのSudburyクレーターやドイツのRiseクレーター,ロシアのPopigaiクレーターといった巨大隕石衝突孔からは,衝撃圧によって形成された“インパクトダイヤモンド”が産出することが古くから知られている. 28)-30)いずれの場合もダイヤモンドはクレーター内部に厚く堆積したtagamiteやsueviteと呼ばれる衝撃溶融岩中より,数百μm~数mmの板状~塊状の粒子として産出する.原料物質はクレーター付近に分布する変成岩中に含まれるグラファイトと考えられ,中には六角板状のグラファイトの単結晶形態を保持したままダイヤモンドへ変化している例も報告されている. 29)しばしば六方晶ダイヤモンドとグラファイトを伴い,3者の間には明瞭な共軸関係が認められることから,主にマルテンサイト相転移によってダイヤモンド化が進行したと推測される.先行研究において,これらのインパクトダイヤは日本結晶学会誌第60巻第1号(2018)サブミクロンサイズの粒子より構成される多結晶ダイヤモンドであると報告28)-31)されてはいるものの,微細組織観察は十分に行われておらず,結晶化プロセスの詳細も未知のままとなっていた.そのような中,2012年のこと,筆者はロシア人の共同研究者からロシアのPopigaiクレーター産のダイヤモンドを提供してもらい,インパクトダイヤの結晶化・組織化のプロセスを探る研究に本格的に取り組むこととなった. 32)Popigaiクレーターはロシアの中央シベリアに位置する直径100 kmに及ぶ巨大クレーターで,約3,500万年前の隕石衝突によって形成されたと考えられている.筆者はクレーター内部に堆積した衝突溶融岩中より採取した10粒のダイヤモンド試料(図5)について,微細組織の観察を進めた.いずれの試料も幅1 mm,厚さ0.1~0.2 mmほどの板状形態を示すが,黒色不透明のものから黄褐色~淡黄色で透光性を示すものまでバラエティに富んでいた.微小部X線回折測定を行ったところ,透光性の高い試料はほとんど純粋なダイヤモンド(立方晶)より構成されるが,黒色不透明や黄褐色の試料ではダイヤモンドに加えてグラファイトと六方晶ダイヤが共存していることがわかった.また,二次元回折パターンを見ると,これらの3つの多形の格子間にはGr(001)//H-dia(100)//C-dia(111)の共軸関係が認められ,相転移は主にマルテンサイトプロセスによって進行したと考えられる.3.2.インパクトダイヤの微細組織と結晶化プロセス収束イオンビーム(FIB)を用いて板状試料の上面から垂直に薄膜断面を作製しTEM観察を行ったところ,Popigai産インパクトダイヤは直径50 nm以下のきわめて細粒な結晶からなる等粒状の組織を示すことがわかった(図6).これはグラファイトからの高圧下直接変換によって合成されるナノ多結晶ダイヤモンドの組織(図1)に酷似し,まさに天然版のNPDと言える.しかし,両者の電子線回折パターンをよく見てみると,合成NPD(等粒状組織部)では結晶方位はほぼランダム(図1C)であ図5 Popigaiクレーターより採取された10粒のインパクトダイヤモンド.(10 impact diamond samplescollected from the Popigai crater.)32)黒色不透明のもの(#02~#04)から淡黄色透明のもの(#05,#07,#09)までバラエティが見られる.編集部注:カラーの図は電子版を参照下さい.13