ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No1

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概要

日本結晶学会誌Vol60No1

グラファイト-ダイヤモンド相転移の結晶化・組織化メカニズム上に大きく貢献していると考えられる.また,NPDは単結晶ダイヤモンドや従来の金属バインダーを用いて固めた多結晶ダイヤモンドよりもはるかに優れた耐摩耗性能を示す19)ため,切削工具や精密加工具などへの工業利用も進められている.その後,愛媛大学では大型高圧装置の導入や合成条件の最適化などを進め,現在では直径,高さともに1 cmに達するNPDを合成するに至っており,さまざまな分野へのさらなる応用が期待されている.2.2 NPDの微細組織と結晶化プロセスグラファイト多結晶体からの直接変換によって合成されるNPDは,等粒状の組織とラメラ状の組織が部分的に混在したユニークな微細組織(図1B)を有する.1),16)等粒状組織部は直径数十nmのランダムな結晶方位を示すダイヤモンドより構成される(図1C)のに対し,ラメラ状組織部では[111]方位に積層した層状(厚さ:10~20 nm,長さ:数百nm)のダイヤモンドよりなり,少量の六方晶ダイヤモンドを含む(図1D).後者においては,ラメラの積層方向に沿って六方晶ダイヤの100回折点と立方晶ダイヤの111回折点が強い選択配向を示すことが電子線回折パターンよりわかっている. 16),20)前述したとおり,グラファイトから六方晶ダイヤおよび立方晶ダイヤへのマルテンサイト相転移では,それぞれGr(001)//H-dia(100),Gr(001)//C-dia(111)の共軸関係が保たれる.これを踏まえると,NPDにおけるラメラ状の組織は出発物質のグラファイトの層状構造に由来し,それがマルテンサイト転移することによって形成されたと考えられる.一方,等粒状組織部ではそのような母相との共軸関係は認めれず,粒状結晶より構成されることから,立方晶ダイヤの核形成~結晶成長を伴う拡散型相転移によって形成されたと推測される.では,NPDが生成される過程において,なぜこのような2つの相転移プロセスが進行し,異なる微細組織が形成されるのであろうか?それを解く鍵はNPD合成の出発物質に用いるグラファイトの中にあった.筆者らは出発物質に用いるグラファイト多結晶体(ロッド形状)を調べ直し,それが粗粒で比較的結晶性の良い粒子(数百nm~1μm)とその粒間を埋める細粒な粒子(~数十nm)が混在した不均質な組織を有することを突き止めた. 21)これはグラファイト多結晶体の製造プロセスに関係しており,粗粒なグラファイトはフィラーとして用いるコークス粒子に由来し,細粒なグラファイトはバインダーとして用いるピッチに由来する(高温焼成時にピッチから結晶化した)と推測される.そして,この出発物質のグラファイト多結晶体の組織の不均一性こそが,NPDのユニークな微細組織の起源であることがわかってきた.図2にナノ多結晶ダイヤモンドの結晶化・組織化プロ日本結晶学会誌第60巻第1号(2018)図2ナノ多結晶ダイヤモンドの結晶化,組織化プロセス.(Crystallization and texturing of nano-polycrystallinediamond.)21)出発物質におけるグラファイトの結晶性に応じて2つの相転移プロセスが進行する.セスの模式図21)を示す.出発物質のグラファイト多結晶体が高圧下で加熱されると,コークス由来の比較的結晶性の良い粗粒な粒子ではマルテンサイト相転移が優勢的に進み,母相の構造を反映したラメラ状組織を示すダイヤモンドが生成される.この際,低温条件では準安定相である六方晶ダイヤも形成される.一方,ピッチ由来の細粒なグラファイトは格子欠陥やダングリングボンドに富むため,高温高圧下でそれらがダイヤモンドの核形成サイトとして働き,拡散型相転移(核形成~結晶成長プロセス)によって立方晶ダイヤのみからなる等粒状組織が形成される.つまり,出発物質に用いるグラファイトの結晶性(構造欠陥の密度や程度)が,ダイヤモンドへの相転移プロセスと形成される微細組織を決定するのだ.2.3直接変換合成ダイヤモンドの組織制御筆者らによるこれらの研究結果は,ナノ多結晶ダイヤモンドの結晶化・組織化プロセスを明らかにしただけでなく,その微細組織の制御に向けた大きな可能性を切り拓いた.図3は異なるメーカーより購入した4種類のグラファイト多結晶体の結晶子サイズ分布(内側のヒストグラム)と,それらを基に合成したNPDの粒径分布(外側のヒストグラム)を示したものである. 21)なお,これら4つの出発試料からのNPD合成は同じ高圧セル内で1回の実験で行ったため,圧力温度条件はすべて同じと考えてよい.出発物質のサイズ分布を見ると,試料A,B,Cでは比較的大きなコークス由来の粒子が含まれているのに対して,試料Dでは400 nm以下の小さな粒子しか認められない.また,ピッチ由来の微細粒子に関しては,試料AとBは試料CとDに比較して若干粗粒であることがわかる.一方,合成されたNPDの粒径分布を見ると,試料AとBは平均粒径60~70 nmで100 nmを超える粒子も多く認められるのに対して,試料CとDは50 nm以下の粒子が大半を占めている.つまり,出発物質のグラファイトの結晶子サイズと合成されるダイヤモンドの粒径の間には,明瞭な相関関係があるのだ.実は,ここに11