ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No1

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概要

日本結晶学会誌Vol60No1

隕石と地球深部におけるメージャライトガーネットの秩序-無秩序転移(a)(b)Temperature ( C)T meltHostrockCoolingT hostShock-inducedmeltT meltTemperature range for cation orderingTime after shock (sec)この冷却シミュレーションにより,隕石中のメージャライトの秩序度と矛盾しない母岩の衝撃温度の上限は900℃であると推定された.衝撃による物質の温度上昇は,その圧縮率に対して正の相関をもつため,初期空隙率に強く依存する.上記の見積りは第一近似的なものであるが,今後,秩序化の速度論データが実験的に得られれば,衝撃温度とともに,衝撃圧縮を受ける前の小惑星表層物質について,より正確な初期空隙率を見積もることができるようになるだろう.5.2地球深部の鉱物学話を小惑星から地球内部に移す.これまでの高圧相平衡の研究に基づき,メージャライトはマントル遷移層(地下410~660 km)の主要構成鉱物と考えられている.日本結晶学会誌第60巻第1号(2018)HostrockCoolingmajoriteaggregateT host1200 C900 C600 C300 CKawai-cell図10一次元熱拡散モデルによる衝撃溶融脈の冷却履歴のシミュレーション.(Simulated cooling historieson the wall of a shock-induced melt vein based on theone-dimensional thermal diffusion model.)(a)衝撃溶融脈の模式図.メージャライト多結晶体を含むケイ酸塩メルトは,母岩への熱伝導により急冷される.衝撃波通過直後のメルトの温度は2,000℃程度.(b)幅400μmの溶融脈が母岩により冷却される場合(実線)と急冷法による高圧合成(破線)の場合の温度履歴.灰色の領域は6配位サイトで(Mg,Fe)-Si秩序化が進行可能な温度.陽イオン秩序化のカットオフ温度(約1,000℃)より高い温度条件にて,隕石中のメージャライトの秩序度が高圧合成試料より小さくなるような冷却速度を考慮すると,母岩の衝撃温度は高々約900℃と推定できる.またマントル遷移層のメージャライトは,FeとともにAlを主要な副成分としてもつ(パイロープ成分で約44mol%).そのため,MgSiO 3-Mg 3Al 2Si 3O 12系のメージャライトの研究が盛んに行われてきた.粉末X線回折データに基づき,常温常圧に回収したメージャライトは,パイロープ成分にして約20 mol%までの組成範囲では正方晶,それ以上では立方晶であると報告されている.21),22)TEMによる双晶組織観察からは,立方晶相の安定領域は,実験室のタイムスケールにおける陽イオン秩序化のカットオフ温度より低い温度条件まで広がっていること,そのため,パイロープ成分が20 mol%以上の化学組成では,試料の急冷速度を問わず立方晶相が合成されることが示唆された.21)一方,中塚らはこの系で系統的にメージャライト単結晶を高圧合成し,それぞれについてX線結晶構造解析を行うという意欲的な研究を行った.23)その結果,パイロープ成分が38~64 mol%の化学組成範囲に,Ia3dとI4 1/aの中間の対称性をもつ新たな正方晶相(I4 1/acd)を見出した.この発見により,マントル遷移層のメージャライトは正方晶である可能性が浮上した.今後の高温高圧その場X線構造解析により,マントル遷移層条件でのI4 1/acd相の安定性が検証されることが期待される.このように,地球深部のメージャライトの対称性は,Alの固溶量から大きな影響を受けるが,Feの固溶量にはほとんど依存しないことが,われわれの合成・天然試料の研究結果から明らかとなった.しかし,実際のマントルのメージャライトには,Na,Ca,Ti,Crといった成分も少なからず含まれると考えられることから,今後は多成分系でのメージャライトの対称性を再検証する必要があろう.ところで,常温常圧の条件で,かつ,化学組成が同じであれば,対称性の違いによるメージャライトの単位格子体積の差は,0.1%にも満たない.22)そのため,秩序型と無秩序型では,それらの弾性的性質にさほどの差はないように思える.しかし,擬ブルッカイト型MgTi 2O 5では,秩序型と無秩序型の常圧での単位格子体積の差が0.6%ほどであるにもかかわらず,秩序型の体積弾性率は,無秩序型より約6%も高い値をもつ.24)メージャライトの秩序-無秩序状態も体積弾性率,言い換えれば,マントル遷移層の温度圧力条件での密度に無視できない影響を与えているかもしれない.6.おわりに以上,メージャライトのサブミクロンスケールでの微細組織と電子線回折パターンの観察から,高温高圧下における鉱物の相転移現象を読み解く取り組みについて紹介した.輝石高圧相だけでなく,隕石やマントルの第1成分であるカンラン石の多形についても,それらの7