ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No1

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概要

日本結晶学会誌Vol60No1

富岡尚敬(a)(b)a*101200002c*しながら,天然試料の“extra”な回折スポットの強度は,合成試料に比べてずっと小さいことがわかる.第3項で述べたとおり,メージャライトの6配位サイトにおける陽イオンは,立方晶-正方晶の相境界温度を下回ると,急速に秩序化が進行して正方晶に相転移する.川井型マルチアンビル装置の一般的な高圧セルでは,試料は10 3℃/秒オーダーで急冷される.18)隕石中でもメージャライトの正方晶への相転移は生じているものの,6配位サイトの秩序度は合成試料ほど高くない.つまり,隕石中のメージャライトは10 3℃/秒より高いオーダーでの冷却を経験したことがわかる.それゆえ,微細組織観察においても,合成試料で観察されたような変調構造や双晶組織は観察されなかった.天然試料は合成試料より秩序度が低いため,TEMの暗視野像で双晶コントラストが認識できるほどの,ドメイン間での構造差がないのがその理由と考えられる.図8図9衝撃を受けた隕石中の(Mg,Fe)SiO 3正方晶メージャライト.[(Mg,Fe)SiO 3 tetragonal majorite in a shockedmeteorite.](文献17)(a)粒子集合体の明視野TEM像.(b)電子線回折像.晶帯軸[010]方向から電子線を入射した場合の回折パターンでは,正方晶相(I4 1/a)のみで出現する反射(h,lがともに奇数:矢印)が微弱に観察される.Counts (log)10 710 610 510 410 510 410 310 2-5Natural(in meteorite)Synthetic000000101202303404202 4041013030Reciprocal distance (1/nm)合成および隕石中の(Mg,Fe)SiO 3メージャライトの電子線回折パターンを,[101]*方向に一次元化した強度プロファイル.(One-dimensional intensityprofiles in electron diffraction patterns of synthetic andnatural(Mg,Fe)SiO 3 majorites along[101]*.)合成試料,隕石試料ともに,I4 1/a相固有の反射(h0l:h,l=奇数)を示す.隕石(天然)試料では,これらの反射強度は合成試料より小さく,このことは6配位サイトの陽イオン秩序度が低いことを意味する.55.メージャライトの対称性が意味すること5.1隕石の衝撃変成以上の合成および天然メージャライトの観察から,これまで報告されてきた両者の結晶構造の違いは,形成温度とその後の冷却速度の違いによる,6配位サイトの陽イオン秩序度の差で説明されうる.隕石中のメージャライトは,幅が1ミリメートル以下ほどの衝撃溶融脈に取り込まれた母岩の輝石粒子の一部が,周囲のメルトによって加熱されることで,固相転移して形成される.(Mg,Fe)SiO 3メージャライトが安定な17~20 GPaでの石質隕石の溶融温度は約2,000℃である.19)このような高温のメルトの近傍では,メージャライトは,まず立方晶として結晶成長する.衝撃加熱でできた溶融脈は,相対的に温度の低い母岩への熱伝導により,衝撃圧が解放される前に急速に冷却される(図10a).この溶融脈の冷却速度を基に,衝撃による隕石の平均的な温度上昇(衝撃温度)を推定することができる.図10bは溶融脈の冷却に関して一次元熱拡散のモデル計算を行った結果である.実線は溶融脈の温度を2,000℃とし,母岩の衝撃温度を任意に設定した際の溶融脈の冷却曲線を示す.破線で示される曲線は高圧合成での試料の冷却曲線である.メージャライトの陽イオン秩序化についての速度論的データはこれまで報告がないが,アナログ物質として擬ブルッカイト構造をもつMgTi 2O 5を例に取れば,6配位サイトのMg-Tiの秩序化は約1,000℃以下では進行しないことが実験的に確かめられている.20)そこで,メージャライトの(Mg,Fe)-Siの秩序化が進行可能な温度をMgTi 2O 5と同程度と仮定すると,高圧試料より低い隕石試料の陽イオン秩序度を説明するには,1,000℃以上の温度範囲において,衝撃溶融脈は高圧合成時より高い速度で冷却されなくてはいけない.6日本結晶学会誌第60巻第1号(2018)