ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No1

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概要

日本結晶学会誌Vol60No1

隕石と地球深部におけるメージャライトガーネットの秩序-無秩序転移KAlSi 2O 6)でも報告されている.白榴石は,665℃以上で立方晶であるが,それ以下の温度では正方晶相が安定である.14)立方晶の白榴石が冷却する過程では,結晶内部に正方歪が進行して双晶ドメインが成長する.ドメインの角が交差する場所では,結晶格子が徐々に自発的に弾性変形して,ミスフィットの形成を防ぐ.15)メージャライトにおいても,相転移による対称性低下で白榴石と同様の双晶組織が形成されたと考えられる.1950℃以上の温度で合成されたメージャライト粒子では,同一試料内にツイード構造と双晶の共存が観察された.これは,高温側の立方晶の安定領域で形成されたメージャライトにおいて,試料の急冷時に6配位サイトのMg,Fe,Siが秩序化することで,非等価な(Mg,Fe)O 6八面体,SiO 6八面体の2つのサイトに分裂し,正方晶への対称性低下が生じたためである.そのような微細組織が共存していることから,6配位サイトの陽イオン秩序度は試料中で不均質である.一方,1950℃以下の温度で合成されたメージャライト粒子には,ツイード構造も双晶も観察されなかった.これは,この温度領域には正方晶の安定領域が存在し,試料急冷時に相転移が生じないためである.以上の観察結果から,20 GPaの圧力条件では,(Mg,Fe)SiO 3メージャライトは,1950℃付近に立方相-正方相境界をもつと推定される.4.隕石中で発見された正方晶メージャライト上述のとおり,正方晶メージャライトのa軸とc軸の長さの比はきわめて小さく,その差はFeの固溶量が増えるとさらに減少する.粉末X線回折の全パターンフィッティングによる格子定数精密化によれば,隕石中のメージャライトの化学組成に近いFe/(Mg+Fe)=0.19の組成では,c/a比は0.9936である.16)また,隕石中のメージャライトは粒径が数百ナノメートル~数マイクロメートルと小さく,複数の鉱物相と共存しているため,その粉末X線回折によるキャラクタリゼーションには困難が伴う.TEMの電子線回折においても,d値の測定誤差は1%を超えることから,メージャライトの軸長の違いを判別することは不可能である.したがって対称性の判定には,回折パターンにおける空間群ごとの消滅則の違いを利用する必要がある.隕石中の(Mg,Fe)SiO 3メージャライトは,いずれも立方晶と報告されてきた.これらの研究の多くは,ほかの輝石高圧相との区別を主な目的としており,メージャライト自体の対称性が厳密に吟味されたとはいえない.そこでわれわれは,合成メージャライトの研究で得た微細組織と対称性判定の経験を基に,隕石中のメージャライトについても詳細な観察を試みることにした.隕石試料として,過去に多くの高圧ケイ酸塩鉱物が発見されていることで有名なTenhamを用いた.1)隕石中のメージャ日本結晶学会誌第60巻第1号(2018)Cubic(Ia3d)Zone [001]a 2 *Tetragonal 020(I4 1 /a) 200図7Zone [010]020 002a 1 *200200a 2 *002200ライトは,衝撃による断層破壊で局所的に摩擦溶融した脈状組織(衝撃溶融脈)の内部や近傍に形成されている.ここから偏光顕微鏡と顕微ラマン分光を用いて(Mg,Fe)SiO 3メージャライトを選び出し,集束イオンビーム装置で超薄切片に加工した後,TEM観察を行った.17)結果に入る前に,単結晶電子線回折におけるメージャライトの対称性判定の方法を簡単に述べる.図7は,晶帯軸[001]と[010]方向から電子線を入射した場合の空間群Ia3dとI4 1/aにおける電子線回折パターンを示したものである.電子線はX線に比べて物質との相互作用が強く,厚さが100~200 nmほどしかない超薄切片試料ですら,多重回折により禁制反射の位置に回折スポットが現れる.このため,明確にI4 1/a相の同定ができるのは,晶帯軸<100>方向から電子線を入射したときの回折パターンが得られた場合のみである.本研究で観察したTenham隕石中のメージャライト粒子は平均粒径450 nmほどの粒子の単一相集合体を成す(図8a).TEMの蛍光板上にて単一粒子の逆格子パターンを一見すると,立方晶Ia3d構造の消滅則のみを満足しているように見える.しかし,高感度のCCDカメラを用いると,Ia3dの対称性では,(010)面上の映進面に起因する消滅則により強度をもたない指数(h,lがともに奇数)の反射が明瞭に確認された(図8b).天然の岩石中に正方晶メージャライトの確かな証拠が得られた初の例である.図9は合成と天然のメージャライトの単結晶電子線回折パターンを,[101]*方向に沿って一次元化して比較したものである.いずれの試料においても,出現する回折スポットは正方晶I4 1/a構造を示している.しかa 1 *晶帯軸[001]と[010]方向から電子線を入射した立方晶と正方晶メージャライトの電子線回折パターン.(Schematic diagrams of electron diffraction patternsof cubic and tetragonal majorites along the[001]and[010]zone axes.)白丸はそれぞれの対称性における禁制反射であるが,多重反射により出現する回折スポット.a 3 *c*5a 1 *a 1 *