ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No5

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概要

日本結晶学会誌Vol59No5

クリスタリットX線発光分光X-ray Emission Spectroscopy物質の電子状態を調べることができる分光法の1つ.X線の照射によって原子の内核電子を励起し,緩和過程で生じる発光を測定することにより,各元素の価数,結合性,スピン状態などの情報を得ることができる.通常,高圧という特殊な実験環境下では用いることできる測定手段は限られてしまうが,X線発光分光法はそのような特殊環境においてもスピン状態の変化量を直接評価できる強力な測定法として知られている.(物質材料研究機構機能性材料研究拠点辻本吉廣)X線非弾性散乱実験Inelastic X-ray Scattering広義では,入射X線と散乱X線のエネルギーが異なるすべてのX線散乱実験,例えばコンプトン散乱や発光分光などを含む.狭義では,X線を用いたフォノンの動的構造因子,本稿ではフォノン分散を調べる高分解能X線非弾性散乱を指す.主要な散乱機構は各原子の電子数の2乗に比例するThomson散乱であるため,基本的には電子数の大きな原子にかかわる散乱強度が強くなるという特徴を有する.現在稼働中のすべての施設で入射ビーム径が100ミクロン程度またはそれ以下であることから微小試料でもフォノン分散が得られるという特徴ももつ.得られる情報としては,中性子非弾性散乱と相補的であるが,Thomson散乱が主要な散乱機構であることを反映して,磁気散乱の寄与は無視できるほど小さい.現在,国内ではSPring-8のみ,海外ではフランス・グルノーブルにあるESRF(European Synchrotron Radiation Facility)やアメリカ合衆国シカゴ近郊にあるAPS(Advanced PhotonSource)など限られた施設で実施可能な実験手法である.(高輝度光科学研究センター筒井智嗣)電子格子相互作用Electron-Phonon Interaction子格子相互作用はフォノンを計測する手段においてスペクトルの形状変化や分散関係に観測される.フォノン分散を決定することが可能なX線非弾性散乱や中性子非弾性散乱においては,電子系によるフォノンの散乱はさまざまな形で観測されることが知られている.よく知られているものとしては,フォノンの寿命の効果とコーン異常による効果がある.前者は,フォノンが電子系で散乱されることによるフォノン・スペクトルの広がりとして観測される.後者は,金属中の伝導電子のフェルミ波数における分散の折れ曲がりとして観測される.(高輝度光科学研究センター筒井智嗣)重い電子的振舞いHeavy Fermion(Electron)Behavior伝導電子の有効質量が電子の静止質量の100倍から1,000倍以上となる現象.希土類やアクチノイドの金属間化合物において観測されることがよく知られている.従来,磁場で有効質量が変化し,磁気秩序が抑制された化合物で多く観測されたことから,磁気的な自由度とのかかわりが議論されてきた.これまでにも理論的にはフォノンの自由度による電子格子相互作用を介した重い電子的振舞いは提案されてきた.近年磁場に鈍感な重い電子的振舞いが本稿で紹介したSmOs 4Sb 12などの物質で発見され,フォノンや電荷の自由度など磁気的な自由度以外を媒介とした重い電子的振舞いに関する研究が実験的にも盛んに行われている.(高輝度光科学研究センター筒井智嗣)金属/セラミックヘテロ界面Metal/Ceramic Heterointerface金属とセラミックスが接合した界面のことを指す.結晶構造が異なる金属とセラミックスのヘテロ界面には格子ミスマッチによる格子歪や転位が導入され,接合強度や材料全体の機械特性に大きな影響を及ぼす.また,この局所領域では空孔形成や元素偏析が起こりやすく,接合時の温度,雰囲気,不純物,結晶方位によってさまざまな(準)安定構造が形成される.ヘテロ界面構造を正確に理解するためには,格子定数や原子配列だけでなく,構成元素についても考慮する必要がある.このため,限定的な条件を用いた理論計算手法では,ヘテロ界面の構造や電子状態に関する予測が困難なケースが多い.よって,原子配列を直接可視化できる走査/透過型電子顕微鏡法による局所構造解析がきわめて有効である.(東京大学大学院工学系研究科総合研究機構熊本明仁,柴田直哉)原子間相互作用は,電子系の寄与を無視することができない.電子系の格子系への寄与が大きい場合には,電日本結晶学会誌第59巻第5号(2017)257