ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No5

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概要

日本結晶学会誌Vol59No5

談話室で,これらの構造を知るための技術の発展が望まれる,示唆に富んだ内容であった.25日には筆者自身の発表がDirect observation of reactionsand labile species within porous frameworkというマイクロシンポジウム(MS-056)の中であり,座長のProf.Javier Murti-RujasとProf. Kumar Biradaに招待していただき,発表も講演も楽しませていただいた(写真1).筆者の講演や植草先生の講演を含め,6件の講演があり,MOF/PCPのみならず,相互作用を使った結晶空間の中でのダイナミクスについての講演であり,結晶空間を使った化学の進展の理解が深まった.筆者の印象に残ったものとしては,Keynote LectureのProf. Simon Billingeの講演が挙げられる.彼の講演は“Thenanostructure problem: challenges, progress, opportunities”というタイトルであった.ナノサイズの物質は長周期構造がないために必然的に回折法のみで構造を決めることができない.そのためにどのようにして二体分布関数(Pair Distribution Function)を用いるかなどを講演しており,新たな材料(ナノ材料やアモルファスなど)の構造解析には新たな方法論が必要であることを考えさせられた.驚いた(?)ことに,すべてのPlenary LectureとKeynoteLectureはYouTubeにアップロードされている(スライドがアップロードされているわけではないが).IUCr2017のホームページ(https://www.iucr2017.org/)にリンクが掲載されているので興味がある方や見逃した方は視聴をお薦めする.今回,セッションに参加することはできなかったが,Cryo-EMのマイクロシンポジウムが行われていたことが印象的であった.これからの物質の構造解析においてはさまざまな手法を駆使する必要があることを示唆するものであった.ちょうど本原稿を記述しているときに,2017年のノーベル化学賞がCryo-EMの開発研究に対して与えられた.技術革新に対するノーベル賞の受賞は喜写真2ゴルゴンダフォートの風景.ばしいものである.今回,ポスター発表に普通のポスター発表と並行してe-Posterが取り入れられていた.これは会議中ならいつでもポスターを見せる(見る)ことができる画期的なものであり,これからもぜひ続けていってほしい.今回IUCr2017に参加して,改めて,物質科学における結晶学の重要性を知るいい機会になった.単純に“もの”を作って応用するということを超えて,その原理を知り,活用するためには結晶学を深く知る必要があると強く思った次第である.余談であるが,学会の合間にハイデラバードの歴史的遺産として有名なゴルゴンダフォート(城塞)および王の墓に学会主催のツアーで観光をした.16~17世紀に建てられたイスラム様式の要塞であり,非常に壮観であった(写真2).インドのもつ雄大で深遠な歴史の一部を見ることができたのは個人的には印象に残るものであった.最後に,日本結晶学会に本会議の参加および渡航費などの支援をしていただいたことを感謝いたします.256日本結晶学会誌第59巻第5号(2017)