ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No5

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概要

日本結晶学会誌Vol59No5

IUCr 2017参加報告結晶ブラッグ反射と散漫散乱を解析した3D-ΔPDF解析結果,ロスアラモス国立研究所における中性子全散乱測定とオープンソースソフトウェアDiffpy.mpdfを用いたMnOに対する磁気PDF解析など,非常に興味深い講演がいくつもありましたが,セッションが重複してしまい拝聴できないものが多かったことがとても残念でした.海外では大面積二次元検出器が次々と導入されており,今回の会議では大面積検出器を活かしたPDF解析に関連する講演が非常に多く見られました.非結晶や構造の乱れがある系を取り扱うことができるPDF解析は化学反応や結晶成長のような局所構造を調べるのに適した手法です.高輝度光と最先端の検出器,測定技術を併せることで従来困難であった秒~ミリ秒オーダーの時間変化も追うことが可能となってきており,基礎科学のみならず産業分野でも今後いっそう強い解析ツールとして活用され,先端材料研究の鍵となっていくことでしょう.さらに,ルーチン化・自動化などの測定・解析の簡便化や,時分割測定,従来の手法を組み合わせた複合計測手法開発(SAXS+WAXSなど)が現在の放射光結晶学の大きな波であることを改めて実感しました.放射光施設に所属しているものとして,また結晶学に携わるものとして,これらに対して大きく貢献できる研究者に成長していきたいという,筆者自身の研究生活のモチベーションを強く再認識することができた学会参加となりました.最後に,インド渡航は初めてであり,とくに食事について不安を抱きながらの旅立ちとなりました.事前にインド渡航経験者の方から毎食カレー味のものしか食べられないと伺い,冗談かと思いきや本当にそのとおりで,スパイシーなものが苦手な筆者にはちょっとした修行でした.帰国後一月が経ちますが,いまだカレーを欲しません.次回のIUCr会議は2020年チェコプラハで開催されるとのことで,ビールやチョコレートなど私好みの美味しい食べ物が今から楽しみであるとともに,次回の会議ではより優れた成果を報告できるよう,日々精進して行っていきたいと思います.蛇足ですが,帰りの飛行機の欠航により,デリーを経由したりして大変良い経験をし,いろいろな意味で一生忘れられない学会となりました.IUCr2017会議参加報告東京工業大学大津博義第24回IUCrは8月21~28日までの日程でインドのハイデラバードで開催された.ハイデラバードはインドの中心よりやや南部に位置する人口900万人を超えるインドの中のIT都市として知られている.この人口(大阪と同程度)の多さであっても,インドの第5の都市であり,インドの人口の多さを窺わせるものである.この都日本結晶学会誌第59巻第5号(2017)市はインドの多様な文化の中でもイスラム文化を基盤とする都市であり,街の雰囲気にはインドらしくない様相も窺えた.今回のIUCr2017は会議場としてHyderabadInternational Convention Center(HICC)を使用した.HICCも筆者の宿泊したホテルも都市部からは離れていたが,インドの雰囲気を窺い知ることができた.ただ,牛が闊歩しているというよりは野犬がうろついてはいたが.筆者は今回のIUCr2017に初日から参加した.開会式前には,XAFSのWorkshopに参加した.これからの物質化学においては結晶の回折から得られる平均構造のみならず,局所構造や非晶性物質の解析がカギとなる場合が多くなるであろう.そのような解析にも役立つXAFSの基礎理論から応用まで幅広く話を聞くことができ,XAFSによる構造の決定の重要性を思い知らされた.初日には,引き続き開会式があり,その中で今回のエバルト賞が構造生物学への多大な寄与からSir Tom Blundellと発表された.その講演の中で国際的な共同研究の重要性を説いていたのが印象的であった.2日目からは多くのマイクロシンポジウムが平行して行われた.すべてのセッションに参加することはできなかったが,筆者はMOF/PCP関係の研究に従事していることもあり,主にMOF/PCP関係のセッションに参加した.この分野は現在非常に活発であり,多様な応用が行われようとしているが,当然その物性や性質は構造に依存するものであり,結晶学は非常に重要な位置を占めていることを痛感した.特に,化学の立場から,北川進先生のPlenary talkが印象的であった.現状,MOF/PCPの化学は進展しており,第4世代と言われるMOF/PCPが生まれつつある.MOF/PCPの場合,その結晶性が非常に重要な役割を果たしている.MOF/PCPは細孔をもつのが特徴であるが,第1世代はその構造が不安定なもの,第2世代は構造が安定なもの,第3世代は柔軟な構造のものと定義される.第4世代とは,階層構造や非対称性,さらに無秩序性をもった今までのMOF/PCP結晶とは異なるものである.第4世代の物質では単純な結晶学では真の構造は見えてこないの写真1 MS-056の講演後の写真.255