ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No5

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概要

日本結晶学会誌Vol59No5

談話室学会側で用意されたカレーやハイデラバード名物のビリヤニに舌鼓を打ったあと,ポスター発表や企業展示を回りながらディスカッションを交わしました.前回カナダで開催されたIUCr会議よりは参加者が少ないように感じましたが,ポスター会場はとても熱気に溢れており,自身の発表でも数多くの有益な意見をいただくことができました.もちろん,口頭発表の会場でも数多くの優れた成果が報告されていました.ここでは,今回のIUCr会議のなかでも特に印象に残った,物理・鉱物分野に関連したセッションについていくつか紹介させていただきたいと思います.なお,筆者は放射光施設において装置担当を務めており,ご紹介させていただくセッションに偏りがある点についてはご了承いただけますと幸いです.まず目を引いたのはMS5(Total scattering)のセッションにおける,イギリスの放射光施設Diamond Light SourceのビームラインI15における,ブラッグ反射をターゲットとした通常のXRD測定と結晶周期性をもたない構造の歪み・乱れが解析可能なPDF測定が同時に測定できるXPDFの開発についての講演です.X線分光器としてBent Laue monochromaterを使用しており,エネルギー40,65,76 keVでのX線が利用可能です.2枚の大面積X線フラットパネル検出器を異なるカメラ長で設置することで,high-Q領域(Qmax~35)まで高い統計精度でのPDF測定と,XRDの測定を同時に行うことができます.また,DAWN(J. Synchrotron Rad. 22, 853, 2015)という,新しいPDF解析ソフト(フリーソフト)を導入した自動データ処理を可能としており,非常にユーザーフレンドリーな実験環境が整えられているようでした.測定例として紹介されたペロブスカイト型構造の化合物のダイナミクス,電池材料のIn-situ充放電過程におけるその場計測結果が報告されていましたが,平均構造解析と局所構造解析を併せて同時に行うことによりnon-ambient条件下での動的プロセスにおける構造情報をより多く得ることができる時分割XPDFシステムは,非常に強力なツールとなっていくことを予感させました.このほかにも,中性子を用いたナノ光触媒材料Bi 4TaO 8Clの局所構造解析に加え,DFT計算,ラマン分光を用いて,ナノ粒子のサイズと局所構造が光触媒効果へ与える影響についてなど,非常に興味深い成果が報告されていました.計測手法を組み合わせた同時測定や多角的な計測と,計算科学との連携が現在の物質研究に必要不可欠であることを印象づけるセッションでした.MS-086(Accurate high resolution diffraction studies athigh pressure)のセッションでは,地球惑星科学に関連した高温高圧下での構造物性研究の成果が主に報告されました.ダイヤモンドアンビルセル(DAC)とレーザー加熱を組み合わせて発生させる地球の下部マントルやコアに相当するようなメガバール・数千度の複合極限条件下における構造解析を行う際,DAC内で試料が割れてしまい単結晶を保持することが難しいことから粉末回折実験が一般的に行われています.しかし今回,ドイツの放射光施設PETRA-IIIでその極限条件下での放射光ナノビームを駆使した単結晶構造解析装置が開発され,そのシステムを用いた窒化鉄のその場合成過程におけるFeN 4,Fe 3N 2,FeN 2,FeN 4などの構造解析結果が発表されました.構造解析のR-factorは10%前後ではありましたが,温度圧力条件は約3,000 K,135 GPaと超高温高圧下における大変難しい条件での構造解析であり,従来の粉末構造解析結果のR-factorが20%程度であることを考えると彼らの解析結果はとても驚異的で,ナノサイズまで集光した高輝度ビームのニーズや重要性を認識しました.このセッションではこのほか,DACを用いた高圧下XRDと蛍光X線分析の同時測定システムの開発,ダイヤモンド結晶についての高圧(3.6 GPa)下でのMEM電子密度分布解析を用いた精密結晶構造解析の講演もありました.MS-041(Advances in computational methods for powderdiffraction)で行われたDurham大学の研究チームによる講演では,パイロクロア型構造をもつBi 2Sn 2O 7の粉末構造解析手法についての報告が行われました.この物質ではcubicのγ相から低温でα相(空間群Cc)へ構造相転移が報告されていましたが,今回は低温相の構造に対してより多くの構造モデルを用いてその低対称性の構造への対称性の変化を詳細に調べるために,従来のgroupsubgroupの関係や文献に頼るだけでなくISODISTORTソフトウェアを用いてSymmetry modesに基づいた547のサブグループツリーを自動作製し,PythonとTOPASを利用してすべての候補構造に対する自動リートベルト解析を実施した,というものです.その解析結果,低温相において,BiO 6八面体のBiが辺の方向に変位したβ相(空間群Aba2),そして以前の構造モデルよりシンプルなモデルで記述できるα相を見出すことに成功したとのことで,これらの解析は,通常のデスクトップPCを用い,約2日間で終了したそうです.従来未知結晶構造に対して大変な時間と労力をかけていた解析をほぼ自動で実施することを可能にした本発表を聴き,今後いっそう粉末回折データに対する構造解析の自動化が発展していくのだろうという期待が高まったうえ,同時にこのような解析の簡便化かつ高精度化の達成は筆者自身の大目標でもあるため,今後いっそう貢献していきたいと強く思いました.その他のセッションでも,XFELにおける格子ダイナミクスを対象としたピコ秒XRD測定,外部からフルリモートアクセス制御可能なPilatus 2Mを用いた単結晶ビームラインの開発(Diamond Light Source),Swiss LightSourceにおけるPilatus 6Mを用いて行われたPbTeの単254日本結晶学会誌第59巻第5号(2017)