ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No5

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概要

日本結晶学会誌Vol59No5

原子分解能分析電子顕微鏡法を用いた金属/窒化物ヘテロ界面の原子レベル構造解析ムはMg 1原子層を取り囲むように偏析している.この結果から,第1層では岩塩型MgO構造の八面体(MgO 6)であるO-Mg-Oのレイヤー構造が形成していることが明らかとなった.第2層のLe原子カラムに関しては,NまたはOであると考えられるが,STEM-EDSからは明瞭な判別はできなかった.また,Siマップでは,ほかの元素と比較すると微量ではあるが,その強度極大を示す位置はMgやOが偏析した位置から外れたAl合金側であることがわかった.このような元素分布や層状構造は,Al合金の結晶方位には依存せず,常にAlN(0001)面に沿って一様に形成されていた.したがって,さまざまな結晶方位をとりうるAl合金側に微量偏析しているSiは,界面構造形成には寄与することなくAl結晶中に固溶もしくは格子間元素として偏析したものと推察される.本結果は,Al合金/AlN溶融接合界面構造は,融液状態を経たAl金属側の結晶場からの拘束よりも,接合前後で固相を維持しているAlN基板の結晶場に拘束されており,化学反応を伴う二次元的な結晶成長によって界面構造形成が支配されているものと考えられる.3.3 Al合金/AlN接合のメカニズム3.3.1反応に寄与する物質の起源原子分解能STEM-EDS分析の結果は,Al合金/AlNの溶融接合界面における層状構造の形成にはMgやOの化学反応を伴うことを示唆している.これらの元素はバルク中で微量に存在するが,接合前の表面状態や溶融金属中での物質移動によって界面に供給されたものと考えられる.まず,Mgの存在については,Al金属中でのMg熱拡散に関するいくつかの実験的報告がなされており,Al中のMgが粒界や表面に偏析する傾向にあるということが知られている. 16-18)また,接合前のAlNやAlの表面には,数nm厚さの酸化アルミニウム(Al 2O 3)自然酸化膜が形成されており,これが酸素の供給源となって接合後にMgO酸化物層を形成したものと考えられる.AlNの表面酸化物が安定に存在することは以前より報告されており, 19)室温においても酸化物が形成されていると考えられる.3.3.2界面反応のダイナミクス酸化アルミニウムは安定な酸化物として知られているが,高真空状態かつMgを含んだ溶融金属を伴う還元的な本実験条件下においては,熱力学的にさらに安定なMgOが形成されうる.まず,Mgを含んだAl合金がAlN表面上で融解し,AlまたはAlN上の表面酸化物Al 2O 3がMgと反応したとする.真空加熱雰囲気では,以下のようにAl 2O 3はMgに対して酸化剤として機能するため,より安定なスピネルMgAl 2O 4を形成することが期待される;19)3Mg + 4Al O→3MgAl O + 2Al(1)2 3 2 4この反応は,主にはAl合金表面のAl 2O 3自然酸化保護日本結晶学会誌第59巻第5号(2017)膜を除去する働きを担っている.化学変化(1)により,Al 2O 3自然酸化保護膜は破壊され,接合界面から除去される.一方,Al 2O 3自然酸化膜はAlN表面にも存在しているが,AlN基板は固体のままで状態変化しないため,AlN側のAl 2O 3自然酸化膜は,化学変化後も基板表面にその平面形態を維持しているものと考えられる.このときに残留した薄い酸化膜が,接合界面の酸化物層の起源である可能性が高い.酸化物層が残留した界面において,Al合金側から金属Mgが供給される場合,MgとMgAl 2O 4の反応が還元雰囲気下で進行することになる.熱力学的には,Mg金属の存在に伴って,MgOが以下の反応を通して安定に形成される;MgAl 2O 4+ 3Mg→2Al + 4MgO(2)X線極点図法による過去の実験報告では,溶融Mgとα-Al 2O 3の(1010)表面の熱反応によって生成したMgOは,α-Al 2O 3と特定の結晶方位関係を有することが示されている. 20)この結果から,Al 2O 3結晶が金属Mgによって還元されることで,Al金属とMgO結晶が生成するという酸化還元反応が提案されている.このように金属Mgが存在する場合,表面酸化アルミニウム膜が真空中650℃の環境下でMgOへと変化することは熱力学的に妥当であると考えられる.3.3.3第一原理計算に基づく界面構造の安定性界面を形成していた第1層のO-Mg-Oは本接合条件下で熱力学的に安定であることがわかった.しかし,MgOとAlN結晶界面においては,2つの結晶間での原子面の組み合わせには幾通りもの可能性がある.とくにAlNなどの極性結晶の接合においては,表面極性が界面エネルギーに大きな影響を及ぼすと考えられる.そこで,金属Alに対するAlN極性面(0001)(Al極性)と(0001)(N極性)それぞれの界面形成についてエネルギー的な比較を行うため,Al/AlNヘテロ界面モデル構造を構築し,DFT計算による界面緩和構造および固着エネルギーの評価を行った.本計算では,Al(111)面に対してAlN(0001)面またはAlN(0001)が面するように配置したAl結晶スラブ,AlN結晶スラブおよび真空層を含んだスーパーセルモデルを用いた.界面の固着エネルギーはAlとAlNの「2つのスラブが接合したセル」と「2つのスラブが離れたセル」のそれぞれのセル全体のエネルギー差として評価した.孤立したAl,AlNおよび固着した際のAl/AlNのそれぞれのスラブのエネルギーをεAl,εAlNおよび,εAl/AlNと定義すると,固着エネルギーは以下のように表される.E ad=εAl +εAlN ?εAl AlN(3)算出されたN極性界面とAl極性界面の固着エネルギーE adは,それぞれ4.45 J/m 2と2.46 J/m 2であった(表1).したがって,N極性のAl/AlN界面構造形成は,Al極性の249