ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No5

ページ
55/84

このページは 日本結晶学会誌Vol59No5 の電子ブックに掲載されている55ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol59No5

原子分解能分析電子顕微鏡法を用いた金属/窒化物ヘテロ界面の原子レベル構造解析図1 AlNの[1120]方向からの構造モデル(a)とそのHAADF(b),ABF(c)STEM像および対応するAl K線(d),N K線(e)のEDSマップと重ね合わせ像(f).(Atomic-scale elemental maps of a AlN singlecrystal.)カラーバーはX線カウント数を表す.編集部注:カラーの図は電子版を参照下さい.ウンドを加味し,各元素マップの抽出には,スペクトル波形分離解析(NSS3,Thermo Fisher Scientific, Ltd.)を用いている.図1d~fのSTEM-EDSマップでは,AlとNが明瞭に観察されており,軽元素であるN原子カラムまでもが原子分解能で元素マッピングできている.現在のEDSでは,周期表にあるボロン(B)からウラン(U)までの元素を分析対象にしており,1つのデータキューブで材料を構成するほぼすべての元素を原子分解能で識別し可視化できる域に達している.3.金属/窒化物ヘテロ界面構造解析への応用3.1背景金属/セラミックスのヘテロ接合を利用した複合材料は,構造材料やパワーデバイス基板として広範に利用されている.このようなヘテロ構造は,機械強度,熱伝導,絶縁耐力などの材料特性と密接に関連することから,界面構造形成メカニズムの理解がきわめて重要である.これまでにヘテロ界面の構造形成メカニズムに関する多くの実験・理論的研究が行われてきた. 4-9)これらの研究の多くは,結晶方位がよく制御された2つの結晶を用いてモデル界面を作製し,格子不整合,化学的結合状態,ドーパント・不純物の偏析など,ヘテロ界面構造の形成に影響するいくつかの基本因子の抽出を目指したものであった.しかし,ヘテロ界面構造の形成は接合プロセスそのものにも強く依存することが知られている.4)特に産業で用いられる複合材料の製造現場においては,日本結晶学会誌第59巻第5号(2017)金属の液相を経由する溶融接合プロセスが採用されており,接合のダイナミックスを考慮したヘテロ界面構造制御メカニズムの解明が求められている.そこで本研究では,パワーモジュール用絶縁回路基板として広く用いられているAl/AlN接合基板について,実際の工業プロセスである溶融接合界面をターゲットとし,原子分解能STEM-EDS法を用いたヘテロ界面形成の原子メカニズムの解明を目的とした.3.2 Al/AlNヘテロ界面の構造解析実用材料のAl/AlN接合プロセスでは,均質な接合を得るために接合部のみが液相となるプロセスが用いられている.このプロセスにおいては,Alと共晶反応を示す添加元素を接合部に少量導入し,接合部のみを融解させて良質な界面接合を実現するTransient Liquid Phase(TLP)法が採用されている. 10)本研究では,添加元素を含んだ溶融接合プロセスを検討するため,共晶反応を示すマグネシウム(Mg)とシリコン(Si)が添加されたAl合金(JIS:A6063)をAlN単結晶基板上に設置し,真空中での加熱によってAl合金を溶融接合させた接合界面の構造解析を行った. 11)その際,AlN基板にはAl極性(0001)のフラットな表面をもつ市販の単結晶AlN基板(DOWA Electronics, Ltd.)を用いた.作製した接合界面試料は,機械研磨,アルゴンイオンミリング法により断面TEM観察用試料へと加工し,原子分解能STEMによる観察・解析に供した.また,界面構造の安定性に関しては,密度汎関数理論(DFT)に基づく第一原理計算手法として,平面波基底PAW法(VASPコード)を用いた安定構造およびエネルギーの理論評価を行った. 12,13)界面における構造解析では,TEM像や制限視野電子回折(SAED)図形を用いて界面を電子線に対して並行(Edge-on)になるように調整した.特にAlN単結晶基板においては,接合後も平坦なAlNのc面を保持しており,[1120]晶帯軸入射でEdge-onの接合界面を観察することができる.一方,接合界面を挟んで反対側のAl合金は,この観察方向から低指数入射のSAED図形は得られず,Al合金はAlNと特定の結晶学的な方位関係を有していないことがわかった. 11)図2は,この界面の原子分解能STEM像である.図2aのABF像において,下側のAlNはウルツ鉱型結晶構造を有し,Al,Nのサイトを明瞭に区別することができる.すなわち,暗い点のほうがAl原子カラムであり,バルクのAlNは下から上に向かってAl極性の構造を有することがわかる.一方Al合金側では,Al(fcc構造)の結晶方位は,観察方向から傾斜しており,原子カラムの点状コントラストが現れていない.このABF像(図2a)の中央に位置する領域に,バルクの結晶構造とは異なるAl合金/AlN界面遷移構造が存在することがわかった.この界面構造は,AlNバルク構造とは一致しないものの,原子レベルで平坦な構造であるこ247