ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No5

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概要

日本結晶学会誌Vol59No5

日本結晶学会誌59,246-251(2017)最近の研究から原子分解能分析電子顕微鏡法を用いた金属/窒化物ヘテロ界面の原子レベル構造解析東京大学大学院工学系研究科総合研究機構熊本明仁,柴田直哉,藤平哲也,幾原雄一Akihito KUMAMOTO, Naoya SHIBATA, Tetsuya TOHEI and Yuichi IKUHARA:Atomic-Scale Structural Analysis of Metal/Nitride Interfaces Using Advanced Atomic-Resolution Analytical Electron MicroscopyThe atomic structures of liquid-phase bonded heterointerfaces between Al alloy and AlNsingle crystal was examined using aberration-corrected scanning transmission electron microscopycombined with high-sensitive energy-dispersive X-ray microanalysis. The formation of O-Mg-Omonolayer structure was found at the interface, facilitating the bonding between the two dissimilarcrystals during liquid-phase bonding processes. Understanding the spontaneous formation of suchlayered transition structures at the heterointerfaces will be a key for fabricating very stable liquidbonded Al alloy / AlN heterointerfaces.1.はじめに自動車,家庭用電化製品,医療用具やインフラ設備のあらゆる分野において,金属やセラミックスなどの異種材料同士を接合した複合材料が利用されている.これらヘテロ界面ではバルク材料とは異なる構造が形成され,特異な特性を発現することが知られているが,その界面特性を理解するためには,原子レベルの構造解明が不可欠である.走査型透過電子顕微鏡法(STEM)は,このような界面構造を理解するうえできわめて有力な手法である.今日のSTEM法では,収差補正装置の導入により球面収差による分解能制限の問題が克服され,結晶中の単一原子カラムを直接可視化することが容易になった.1)また,従来法の高角度環状暗視野法(HAADF)だけでなく,最近では,結晶材料中の重元素と軽元素の原子カラムを同時に可視化できる環状明視野法(ABF)などの新たなイメージング法も開発されている.2)このような原子イメージング手法の進展と歩調を合わせる形で,従来型の分析手法であるエネルギー分散型X線分光法(EDS)も急速に進展している.本稿では,収差補正STEM-EDS法の最近の進展を概観するとともに,収差補正STEM-EDSを用いた金属/窒化物ヘテロ界面の原子レベルでの構造解析例について紹介する.2.原子分解能STEM-EDS法の進展これまでTEM/STEMを用いたEDS分析においては,電子線を1 nm程度に細く絞ることでナノ領域の元素/組成分析が可能であった.3)しかし現在では,収差補正器の登場により,電子線を0.1 nm以下に絞って試料上に照射することが可能になり,原子スケールの元素/組成情報抽出に新たな道が開かれている.さらに,シリコンドリフト検出器(SDD)の導入により従来型検出器よりも数倍高い検出効率を実現でき,超高感度・高効率なX線検出が可能になった.本研究では,EDS検出器の素子面積が100 mm 2のSDDを2つ搭載した収差補正STEM(JEM-ARM200F,JEOL Ltd.)により,結晶性材料における原子分解能STEM-EDS分析を行った.図1に,[1120]晶帯軸入射の窒化アルミニウム(AlN)単結晶の原子分解能STEM-EDSマッピング結果を示す.図1aは構造モデル,図1bおよびcは,STEM-EDSマッピングと同条件で撮影したHAADF像とABF像,図1d~fはそれぞれアルミニウム(Al),窒素(N)のマップおよびその合成像を示す.軽金属および軽元素から構成されるAlNは,ほかのIII族窒化物半導体よりも電子線照射によって構造変化を起こしやすいため,本STEM-EDSマッピングでは,電子線プローブを5×5 nm 2の試料上で高速かつ連続的にスキャンし,X線検出信号を画像ピクセルごとに蓄積している.これにより,高い電流密度の電子線プローブが局所領域に滞在することを避けるとともに,低ノイズの良質なEDSスペクトルを取得することが可能となる.また,ソフトウェア制御により4 s以内の間隔でドリフト補正を行った.実験で取得したデータキューブは,結晶の単位格子が複数含まれるため,同時取得で得られたSTEM像を参照パターンとし,分割されたデータキューブを積算し,ピクセル当たりのX線カウントを積算させることで高S/Nのマップを形成している.また,他元素間での特性X線ピークの重なりや低エネルギー側での制動放射によるスペクトルのバックグラ246日本結晶学会誌第59巻第5号(2017)