ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No5

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概要

日本結晶学会誌Vol59No5

希土類化合物における格子振動の電子状態への影響-充填スクッテルダイトのフォノン物性-議論することは困難である.こちらについては,マクロ測定を含めたもう少し詳細な議論が必要であると思われる.4.まとめに代えて図7室温におけるPr(Os 1-xRu x)4Sb 12の横波方向のN点(N(T))のX線非弾性散乱スペクトルのRu置換効果.51)(Ru substitution effect of inelastic X-rayscatteting spectra of Pr(Os 1-xRu x)4Sb 12 at 300 K.)本稿では充填スクッテルダイト化合物のフォノンに関して,電子物性とのかかわりが大きいと考えられるROs 4Sb 12化合物についてこれまでにX線非弾性散乱で明らかになっていることについて述べた.充填スクッテルダイトのフォノンと電子物性のかかわりについては本稿で触れたPrOs 4Sb 12-PrRu 4Sb 12系を含め,解明されていないことが少なくない.例えば,磁場に鈍感な重い電子化合物で知られるSmOs 4Sb 12においては, 39)Sm価数の温度変化とSmゲスト・モードとのかかわりが理論的に指摘され,SmOs 4Sb 12のSmサイトをLaで置換した系でもSmゲスト・モードとSm価数のかかわりが実験的にも指摘されている. 52)Smについては中性子の吸収が大きなSm同位体のために中性子散乱が困難であることから,一連の化合物を行う際に苦手とする元素をもたないX線非弾性散乱でなければ,Sm化合物特有の問題に加えてほかの希土類との違いを比較しながらこれらの問題の解明を進めていくことは困難であると思われる.希土類化合物のフォノン測定を行うに当たってのX線非弾性散乱のもう1つの強み(ある意味では弱みであるが)は,磁気散乱が観測されないことである.例えば,図7に示したPrRu 4Sb 12についてはIwasaらによる中性子非弾性散乱による実験結果も報告されているが, 53)報告されている低温のスペクトルはフォノンと磁気励起が渾然一体となったものであり,X線非弾性散乱スペクトルとは様相が異なる.希土類化合物においては,フォノンだけを見るという観点に立てば,試料サイズを含めてX線非弾性散乱のほうが,世界中で実験可能な施設が非常に限られていることを除けばスペクトルの観測において優位である.本稿で紹介した充填スクッテルダイト以外の希土類化合物については,希土類硼化物や高圧下のSmSなどの化合物においてSPring-8だけではなく欧州のESRFでもX線非弾性散乱を用いたフォノンやフォノンに関連した電子物性にかかわる報告がすでになされており, 54)ぜひとも今後活用していただきたいと思う.図8 Pr(Os 1-xRu x)4Sb 12の横波方向のN点(N(T)におけるPrゲスト・モードのエネルギーの温度依存性. 51)(Temperature dependence of Pr guest mode energy attransverse N(N(T)point in Pr(Os 1-xRu x)4Sb 12.)伝導体の境界はRu濃度が70%付近であり,図8に示したフォノン・エネルギーの傾きが変化する領域とは明らかに異なっている.したがって,フォノンの非調和性と超伝導ないしは伝導電子の質量増強効果とを簡単に日本結晶学会誌第59巻第5号(2017)謝辞本研究は,John P. Sutter(JASRI,現Diamond LightSource),内山裕士(JASRI),Alfred Q. R. Baron(理研SPring-8センター),金子耕士(原子力機構),長谷川巧,荻田典男,宇田川眞行(広島大学),菅原仁(神戸大学),落合明(東北大学),東中隆二,青木勇二,佐藤英行(首都大学東京)各氏との共同研究である.X線非弾性散乱実験への参加,試料提供や有益な議論をしていた243