ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No5

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概要

日本結晶学会誌Vol59No5

筒井智嗣なる電子・格子相互作用についてはゲスト・モードの半値幅に現れている.図5に縦波方向のH点および横波方向のN点でのゲスト・モードの半値幅における希土類依存性を示す.半値幅の希土類依存性の傾向と伝導電子の有効質量増強の指標である電子比熱係数の希土類依存性は酷似している.フォノン・スペクトルにおける半値幅は電子・格子相互作用が大きいほど広がることが知られているので,伝導電子の有効質量の増強が電子・格子相互作用の強さと正の相関を有していることを得られた実験結果は示唆している.スクッテルダイト化合物におけるf電子の影響はゲスト・モードの強度としても観測されている.図6が音響フォノンに対するゲスト・モード強度の希土類依存性を図5 ROs 4Sb 12における縦波方向のH点(H(L)および横波方向のN(N(T)ゲスト・モードのスペクトル半値幅の希土類依存性. 20)(Rare-earth dependenceof line width of guest mode spectra at longitudinalH(H(L)points and transverse N(N(T)points.)図6 ROs 4Sb 12のX線非弾性散乱で得られた縦波方向のH点(H(L)および横波方向のN点(N(T)の音響モードに対するゲスト・モードの相対強度の希土類依存性. 20)(Rare-earth dependence of guest modeintensity relative to an acoustic mode at longitudinalH(H(L)points and transverse N(N(T)points.)示している.ゲスト・モードのエネルギーの中で最もエネルギーが高い縦波方向のH点ではf電子による強度変化は観測されなかったが,ゲスト・モードのエネルギーの中で最もエネルギーが低い横波方向のN点ではf電子の有無でフォノン・スペクトルの強度に顕著な違いが観測された.このことは,充填スクッテルダイトのフォノン分散の1つの特徴である音響フォノンとゲスト・モードが反交差において, 18,20,46)フォノン分枝同士の混成に対してf電子の影響が及んでいることを示唆している.言い換えれば,ROs 4Sb 12においてf電子の寄与がゲスト・モードのスペクトルに反映されるとすれば,N点のフォノンに現れることを暗示している.3.4カゴ構造を構成する遷移金属元素のd電子が低エネルギー・ゲスト・モードに及ぼす影響ここまで大振幅非調和振動について,f電子とランタノイド収縮に関連した議論を進めてきた.充填スクッテルダイトにおいて希土類と遷移金属のサイトを置換した混晶系でも比較的純良な単結晶が得られている.そこで,ここではBCS型超伝導体であることが指摘されているPrRu 4Sb47)12と非BCS型超伝導体であることが指摘されているPrOs 4Sb37)12の混晶系について議論したい.PrOs 4Sb 12はPr化合物で初めて発見された重い電子超伝導である.PrOs 4Sb 12とPrRu 4Sb 12の合金は全率固溶体が得られる系であり,濃度にかかわらず低温で超伝導を示すことが知られている. 48)しかしながら,2つの超伝導の性質が異なることから70%付近で超伝導転移温度が極小を示す.また,低エネルギー励起に関しては比熱と帯磁率から70%付近で結晶場励起とPr原子によるアインシュタイン振動子で近似できるゲスト・モードのエネルギーが交差することが指摘され, 49)フォノンと電子励起の結合状態であるvibron状態に関する議論がなされた. 50)X線非弾性散乱は,電子系とのかかわりを議論する目的で横波のN点で実施した.300 Kにおいて得られたスペクトルは図7のとおりである. 51)Ru濃度に対してPr原子によるゲスト・モードのエネルギーが変化していることがわかる.そのエネルギーをRu濃度に対してプロットすると,室温のPrゲスト・モードのエネルギーは濃度に対してほぼ線形とみなせる振舞いをしていることがわかる.その温度変化について示したものが図8であり,それぞれの化合物の温度変化がほぼ直線的であることがわかる.温度の増加によってフォノン・エネルギーが増加することは,調和近似で記述されるフォノン・モードでは観測されない現象であり,Pr原子サイトでの非調和ポテンシャルの影響が大きいことが影響している.温度変化の濃度に関しては,図8に示したPrOs 4Sb 12だけが明らかに傾きが異なっており,重い電子超伝導体とBCS超伝導体での違いのように見える.しかしながら,Fredericらが報告している相図では重い電子超伝導体とBCS超242日本結晶学会誌第59巻第5号(2017)