ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No5

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概要

日本結晶学会誌Vol59No5

森一広,米村雅雄,福永俊晴i-j間の原子間距離,R0は結合イオンの組み合わせによって与えられるbond valenceパラメータ,bはイオンの組み合わせに依存しない一定値(b=0.37 A)である.このs ijの総和V iをBVSと定義し,陽イオンiの実効的な価数とする.一方,Adamsは酸化物超イオン伝導ガラスにBVSを適用するため,各元素の電子親和力やイオン化エネルギーを考慮し,一定値として取り扱われていたbについてもR0と同様に結合イオンの組み合わせによって変化する量(softness-sensitive BVパラメータ)として評価し直した. 58)さらに,BVS値とキャリアイオンの理想価数との“ずれ”を示すBV mismatch?V = Vi? Vid + p(4)を新たに定義し,キャリアイオンの安定度の指標とした.ここで,V idはキャリアイオンの理想価数,pは物理的に不可能な配置を排除するための関数である.通常,|ΔV|<0.04の場合,キャリアイオンはその領域で比較的安定に存在できるとみなす(以下,安定領域と称す).式(4)を利用して,(7 Li 2S)x(P 2S 5)100-xガラスおよび7Li 7P 3S 11結晶中の「予想されるリチウムイオン伝導経路」(以下,リチウムイオン伝導経路と称す)の可視化を試みた.ここで,Li + -S 2-相関に関するsoftness-sensitive BVパラメータは,R0=1.46652 Aおよびb=0.653 Aである. 58)また,計算範囲(カットオフ値)は,対象とする空間要素の中心から半径6 A以内とした.さて,リチウムイオンが固体中を移動する際,必ず安定領域を経由するだろう.しかしながら,安定領域だけではRMCセル内の端から端まで完全に繋がっていない(すなわち,安定領域だけではパーコレートしない)ため,リチウムイオンは,安定領域からやや不安定な領域(ポテンシャルエネルギーが相対的に高い領域)を経由して移動しなければならない.そのため,やや不安定な領域(以下,準安定領域と称す)について抽出する必要がある.安定領域のしきい値を|ΔV|<0.04と定めたが,さらに|ΔV|の許容値を増やすことで準安定領域を抽出することができる.その際,パーコレートに必要な|ΔV|の許容値を|ΔV| maxと定義した.図7に,(7 Li 2S)x(P 2S 5)100-xガラス(x=50,60,70)および7 Li 7P 3S 11結晶のリチウムイオン伝導経路を示す(安定領域を橙色,準安定領域を青色で区別している).図より,(7 Li 2S)50(P 2S 5)50ガラスでは準安定領域が大半を占めているが,xの増加に伴って準安定領域が減少し,代わりに安定領域が増加している.さらに,7 Li 7P 3S 11結晶では安定領域が大半を占めるようになる.このように,xの増加と準安定結晶への結晶化によって,リチウムイオンが移動しやすい環境が固体中に形成されていることがわかる.これは,図5で示したxの増加および結晶化によるσRTおよびEaの振る舞いとよく一致している.4.リチウムイオン挙動の観察BVS解析を応用することでリチウムイオン伝導経路を観察したが,伝導経路内のリチウムイオンの動きについてはまだ不明である.そこで,イオン伝導度が最も大きい7 Li 7P 3S 11結晶に対して中性子準弾性散乱実験を行い,伝導経路内のリチウムイオンの動き(自己拡散)を観察した. 20)中性子準弾性散乱実験は,J-PARC MLFのBL02DNAを用いて行った.図8に,Q=0.32 A-1で測定した7Li 7P 3S 11結晶の動的構造因子S(Q,ω)スペクトルの温度変化を示す.150 Kではリチウムイオンの拡散はほとんど生じていないと考えられるため,このS(Q,ω)スペク図7リチウムイオン伝導経路内の安定領域(橙色)および準安定領域(青色)の分布.(The relatively stableregions(orange)and the metastable regions(blue)forLi ions in the Li-ion conduction pathways.)図8Li 7P 3S 11結晶の動的構造因子S(Q,ω)の温度変化(Q=0.32A-1).(ThetemperaturedependenceofS(Q,ω)at Q=0.32 A-1 for Li 7P 3S 11 crystal.)234日本結晶学会誌第59巻第5号(2017)