ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No5

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概要

日本結晶学会誌Vol59No5

森一広,米村雅雄,福永俊晴3.リチウムイオン伝導ガラスの構造とイオン伝導経路の可視化3.1 Li 2S-P 2S 5系リチウムイオン伝導体LIBの電解質は主に可燃性の有機電解液であることから,発火や漏洩の危険性を常に孕んでいる.このような問題を解決する方法として,電解質の無機物化(不燃性固体電解質の利用)による全固体LIBが検討されている.6),21)-23)全固体LIB用固体電解質の有力な候補として,古くからLi 2S-SiS 2ガラス, 24)-26)Li 2S-GeS 2ガラス27)-29)およびLi 2S-P 2S 5ガラス30),31)などの硫化物系リチウムイオン伝導ガラスが知られているが,ここ十数年の間に,Li 2S-GeS 2-P 2S 5チオリシコン物質群, 32)-34)Li 7P 3S 11結35),36晶)およびLi 10GeP 2S 12結晶6),8),37)といった新しい硫化物系リチウムイオン伝導体が次々と発見されている.これらのイオン伝導度は,室温付近で10-3~10-2 S/cmと従来の有機電解液に匹敵する値を示し,電位窓も広い.そのため,これらの硫化物系リチウムイオン伝導体を研究対象とし,固体中をリチウムイオンが高速で移動できる原因(イオン伝導機構)について明らかにすることは,学術的な興味に加えて,全固体LIBの性能向上においてもきわめて重要である.ここでは,Li 2S-P 2S 5ガラスおよびLi 7P 3S 11結晶に焦点を当て,中性子を利用した本系の構造およびイオン伝導経路の可視化について記述する. 15)3.2 Li 2S-P 2S 5ガラスおよびLi 7P 3S 11結晶の構造メカニカルアロイング法によって,異なる7 Li濃度をもつ(7 Li 2S)x(P 2S 5)100-xガラス(x=50,60,70)を作製した.ここで,7 Liはリチウムの同位体であり,試料による中性子の吸収を抑えるために使用している.また,(7 Li 2S)70(P 2S 5)30ガラスを約240℃で熱処理することで,新たにLi 7P 3S 11結晶を得ることができる.これらの試料に対して交流インピーダンス測定を行い,電気伝導度および活性化エネルギーを求めた.中性子回折実験は,J-PARC MLFのBL21 NOVAを用いて行った.また,RMCモデリングの精度を向上させるため,中性子回折データに加えて,放射光X線回折データを併用した. 38)結晶構造解析(例えば,Rietveld解析)では中性子回折データI(Q)(Q=4πsinθ/λ=2π/d:Qは散乱パラメータ,λは中性子の波長,θは散乱角2θの1/2,dは面間隔)を直接用いるが,非晶質構造解析では,I(Q)に対して吸収や多重散乱,非干渉性散乱,などの補正を行った構造因子S(Q)が用いられる. 39)の散乱長,Sij(Q)は部分構造因子である.上記のようなS(Q)の定義をFaber-Ziman型と呼ぶ.さらに,式(2)のように,S(Q)をフーリエ変換することで二体分布関数g(r)が得られる.g r1∞∫Q ?S Q2π2 0rρ?( ) = 1+ ( ) ? ? ( )1?sin Qr dQ(2)ここで,rは原子間距離,ρは原子数密度である.今回は,(7 Li 2S)x(P 2S 5)100-xガラスについてはS(Q)データを,7Li 7P 3S 11結晶についてはg(r)データを用いてリバースモンテカルロ(RMC)モデリングを行った. 40)-42)ここで,RMCセル(立方体)の一辺のサイズは約46 A,原子の総数は約5,000個である(RMCモデリングの詳しい条件に15ついては,文献)を参照のこと).図3にRMCモデリングの結果について示す.これらの解析結果から,(7 Li 2S)x(P 2S 5)100-xガラス(x=50,60,70)および7 Li 7P 3S 11結晶の三次元構造を得ることができた(図4).(7 Li 2S)x(P 2S 5)100-xガラス(x=50,60,70)および7Li 7P 3S 11結晶の室温での電気伝導度(σRT)および活性化エネルギー(Ea)を図5に示す.ガラス領域において,xの増加に伴ってσRTが急激に上昇し,(7 Li 2S)70(P 2S 5)30ガラスでは10-4 S/cmまで到達する.さらに,7 Li 7P 3S 11結晶では,(7 Li 2S)70(P 2S 5)30ガラスよりも1桁高い10-3 S/cmを示す(最近の報告では,10-2 S/cm付近まで達している36)).さて,Li 7P 3S 11結晶の結晶構造は,放射光X線回折実験により,PS 4単量体とP 2S 7二量体から構成されていることが明らかにされている(空間群:P1). 43)パルス中性子回折実験においても同様の結果が得られており,リチウムイオンの位置が精度良く決定された. 44)一方,(Li 2S)x(P 2S 5)100-xガラスの構造もRMCモデリングcic jbibjS ( Q) =∑SijQ2( )i,j b(1)ここで,iおよびjは原子種,ci(cj)はi原子(j原子)の濃度,bi(bj)はi原子核(j原子核)の散乱長,<b>は平均図3リバースモンテカルロモデリングの結果.(Theresults of revers Monte Carlo modelling.)232日本結晶学会誌第59巻第5号(2017)