ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No5

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概要

日本結晶学会誌Vol59No5

層状ペロブスカイト構造をもつ新しい酸フッ化物・酸塩化物の結晶化学成できるようなら,筆者が取り組む以前に報告はなされていたと思われる.新規相に含まれる中心原子Mn 2+(高スピン),Ni 2+(高スピン),Zn 2+はすべてヤーン・テラー不活性の遷移金属イオンである.結晶構造は正方晶のI4/mmmで,液体ヘリウム温度まで冷やしても構造相転移を生じない.面直のM-Cl結合距離と面内のM-O結合距離の比(M-Cl)/(M-O)はMn,Co,Ni,Znの順で1.34,1.35,1.35,1.37となり,また各M-Cl結合距離はイオンモデルから期待される値よりも11,14,15,15%伸張している.しかし,これらの値は結合長比が1.44でM-Cl結合長の余分な伸び率が20%のCu 2+の場合と比較すると小さいことから,ヤーン・テラー活性の有無が正方歪みに強く影響していることがわかる.それでもなお,これら新規相は平面4配位を強く反映した電子状態を期待どおり示す.例えば,Sr 2ZnO 2Cl 2は可視紫外光吸収分析によりE g=3.66 eVのバンドギャップをもつ間接遷移型半導体であることが示唆され(図2a),四面体配位からなるZnOの直接遷移型(E g=3.37 eV)とは異なるバンド構造が予想される.第1原理計算によって得られた状態密度の様子を図2cに示す.酸塩化物のZn 3dバンドはO 2pバンドと強く混成する一方,Cl 3pバンドとの混成は弱いことがわかる.このことは,Znが面内の酸素と共有結合し平面4配位を形成していることを支持する.さらに特筆すべき点は,O 2p軌道とZn 3dx 2-y 2軌道の反結合性軌道から構成される価電子帯の上端がΓ点から離れたM点に現れることである(図2b).この状況はΓ点に価電子帯上端が存在するZnOと大きく異なる. 21)Sr 2ZnO 2Cl 2の吸収測定が示唆していた間接遷移は,M点にある価電子帯上端とΓ点にあるZn 4s軌道からなる伝導帯下端のエネルギーギャップに対応する.以上のことから,Sr 2ZnO 2Cl 2はZnの平面4配位の良いモデル物質であり,まだ十分に研究されていない光学・電子物性の理解が今後進むものと期待される.3.2正方ピラミッド配位構造3.2.1アニオンの秩序配列と磁気秩序状態BO 6八面体の頂点酸素を1つだけハロゲンで置き換える場合,上述の平面4配位酸ハロゲン化物よりも多様な配位構造とハロゲンのサイト自由度が生まれる.その良い例としてSr 2NiO 3X(X=F,Cl)を紹介する. 22)この酸ハロゲン化物も高温高圧条件下で得られ,頂点サイトはハロゲンと酸素原子によって占有される(図3).しかし,これらO/Xアニオンの秩序配列はハロゲンの種類に依存して変化する.つまり,Sr 2NiO 3Cl(空間群:P4/nmm)の場合は-(NiO 2)-(SrCl)2-(NiO 2)-(SrO)2-の積層構造をなし頂点アニオンの秩序配列が生じるが,Sr 2NiO 3F(空間群:I4/mmm)の場合は-(NiO 2)-(SrO 0.5F 0.5)2-の積層順序でOとFの間に秩序配列は生じない.一方,Ni原子周りの配位環境に注目すると,Niイオンは5つの酸化物イオンと共有結合し正方ピラミッドを形成していることがわかる.実際,ハロゲンとNi原子との結合距離はイオンモデルから期待される値よりも31%も余分に長い.この配位数減少の起源は酸化物イオンの強い共有結合性によるが,より大きなイオン半径をもつ塩素についてはその立体効果も重要な要因となる.また,Sr 2NiO 3Fにおいてアニオンの無秩序配列が起きる原因として,F-とO2-のイオン半径が同程度であること,1,500℃と非常に高図2Sr 2ZnO 2Cl 2のUV-Vis-NIRスペクトルとバンド構造.(UV-Vis-NIRspectrumandbandstructureofSr 2ZnO 2Cl 2.)(a)UV-Vis-NIR吸収スペクトル.(b,c)エネルギー分散と状態密度.図3Sr 2BO 3X(B=Co,Ni;X=F,Cl)の結晶構造.(Crystalstructure of the layered nickel and cobalt oxyhalides.)日本結晶学会誌第59巻第5号(2017)225