ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No5

ページ
31/84

このページは 日本結晶学会誌Vol59No5 の電子ブックに掲載されている31ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol59No5

日本結晶学会誌59,223-229(2017)総合報告層状ペロブスカイト構造をもつ新しい酸フッ化物・酸塩化物の結晶化学物質・材料研究機構機能性材料研究拠点辻本吉廣Yoshihiro TSUJIMOTO: Crystal Chemistry of New Layered Oxyhalide Perovskites withAnion OrderWe have successfully synthesized new members of layered perovskite oxyhalides with theRuddlesden-Popper type structure by a high pressure, high temperature method. We found thatthe halide ions exclusively occupied apical anion sites leading to modifications of coordinationenvironment around the metal centers. Such site preferences of mixed anions provide goodopportunities for extending structure and properties of transition metal oxides or halides. Here wepresent square planar coordination stabilized in Jahn-Teller inactive oxychlorides Sr 2 MO 2 Cl 2(M=Mn, Ni, Zn), a spin ordered/disordered state triggered by anion ordered patterns in Sr 2 NiO 3 X(X=F, Cl), and a novel pressure-induced spin state transition involving a polyhedral transformation inSr 2 CoO 3 F.1.はじめに機能の宝庫と名高いペロブスカイト,およびその関連化合物は,現代の科学技術を支える基盤材料として活用されており,今も多くの研究者の興味を惹きつけている.ペロブスカイト関連化合物の多様な構造と電子物性の発現を可能にしている要因は,金属カチオンの幅広い選択性と組成制御の容易さである.この特徴は物性の系統的な研究を可能にし,物質の本質を深く理解することに貢献している.一方,金属カチオンと結合する配位子のアニオンは,結晶構造の重要な構成要素で磁気・電子物性と密接にかかわる重要因子であるにもかかわらず,物質探索の観点からは長い間注目されなかった.実際には,TiやNbなど主に前周期酸化物を対象とした酸素欠損の化学が古くから研究されているが,1),2)酸素欠損サイトの均質性の問題から物質探索のアプローチとしては大きな進展は見られない.それでも最近においては金属水素化物を還元剤とした低温合成法の発展により,高温還元法では得られない大きな酸素欠損量と異常配位状態をもつ複合金属酸化物を合成できるようになり,酸化物の物質探索に新たな潮流が生まれつつある.3)一方,酸化物の探索と理解がある程度成熟した現在,異種のアニオンを含有する,いわゆる複合アニオン化合物に注目が集まっている.酸素,フッ素,硫黄など各アニオンは固有のイオン半径,電気陰性度,酸化数を有するため,単一のアニオンのみからなる化合物とは異なる新規なアニオン格子と配位状態の設計,それに付随する革新的機能の発現が期待される.複合アニオン化合日本結晶学会誌第59巻第5号(2017)物の研究自体は別段新しいわけではなく半世紀以上も前から行われている.4),5)しかし,アニオンの複合化は金属イオンのそれと比べて格段に難しく物質例が限られていたため,複合アニオンによってもたらされる革新性を深く検討できる状況ではなかった.しかし,1986年6のBednortzとMullerによる高温超伝導現象の発見)はそのような状況を一変させる契機となった.多くの研究者がより高い臨界温度を目指す過程で,種々の混合アニオン系物質の探索が本格的に進められることになった.特に精力的に研究された系は,高温超伝導現象が初めて見出された層状ペロブスカイト化合物La 2-xBa xCuO 4と同じK 2NiF 4型構造である.7)低温フッ化反応によって得られるSr 2CuO 2F 2+δはTC=46 Kの超伝導転移を示し,8)Sr 2CuO 2Cl 2は理想的二次元正方格子量子磁性体として知られている.9)また最近の例では高圧法によって合成された酸水素化物Sr 2VO 3Hが一次元磁性体として注目されている. 10)複合アニオン化合物の研究において筆者は後発組に属するが,後述するように高圧合成法を用いることにより,数々の新規層状酸ハロゲン化物の合成に成功し,ほかの混合アニオン物質では見られないユニークな配位構造と磁気状態を発見することができた.本稿では,最近得られた成果を中心に,層状酸ハロゲン化物の構造,アニオンサイトの自由度と配位構造,そして磁性を中心とした物性について紹介する.2.酸素/ハロゲンの秩序配列と中心金属の配位構造複合アニオン化合物における関心事の1つとして異種アニオンのサイト選択性がある.構造と物性の制御,そ223